恋桜~あやかしの闇に囚われて~
 そのとき和真は、インターネットの世界では有名らしいその村に誰も近づかないことの意味を深くは考えていなかった。有名とは言ってもマニアの間だけのことで、実際はそれほどのこともないだろうと高を括っていたのだ。

 早春の午後の日差しが、日女薙トンネルを押し潰すように覆いかぶさる山の頂上付近を照らしていた。山あいの日没は早い。この分では明るいうちには帰れないかもしれないと、ふと和真は嫌な予感を覚えた。





  †  †  †





 日女薙トンネルは暗く果てしないように見えたが、途中でカーブしていたため視界が悪かっただけだったようで、通り抜けるまでそう時間はかからなかった。和真は少しほっとして、詰めていた息を吐いた。

 トンネルの先にも荒れた道が続き、手入れのされていない森の中をしばらく進むと、谷あいを見下ろす坂道に出る。木々の枝の隙間から、おそらくかつては田畑であったと思われる、草がぼうぼうと茂った平地や、ぽつりぽつりと建つ崩れかけた荒屋が望めた。

「これが日女薙村か……。本当に廃村なんだな。人っ子ひとりいない」

「マジで生き物の気配がないな。時が止まっているみたいだ」
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