恋桜~あやかしの闇に囚われて~
ミツルが珍しく詩的なことを言って、助手席のウインドーを下げた。谷間だから湿気がたまるのか、あるいは谷底に川でも流れているのか、わずかに雨のような水の匂いがする。車内に入りこんでくる風は三月とは思えないほど生温く、少し不快だった。
「日が暮れてきてる。さっさと終わらせよう」
和真が急かすと、ミツルは窓から身を乗り出し、遠くを見つめた。
「……村の外れに小さい丘があって、桜が咲いてる。満開みたいだ。和真、あそこに行ってみようか」
「満開の桜か。絵面的にもいいかもな」
一本道を下っていくと、村の入り口と思しき場所に、木製の看板が立っている。矢印の下にあるかすれた文字は、『日女薙村へようこそ』『民宿はこちら』と読めた。こんなところにも民宿があったんだなと和真は感心しながら、車を進めた。娯楽が少なかった時代には、渓流釣りや山菜採りでもしてのんびり過ごす休暇も需要があったのかもしれない。
「おお、なかなか凄いな! いいじゃん、いいじゃん」
荒屋の立ち並ぶかつて村だった廃墟の中を抜け、桜の巨木が近づいてくると、ミツルのテンションが上がった。
「日が暮れてきてる。さっさと終わらせよう」
和真が急かすと、ミツルは窓から身を乗り出し、遠くを見つめた。
「……村の外れに小さい丘があって、桜が咲いてる。満開みたいだ。和真、あそこに行ってみようか」
「満開の桜か。絵面的にもいいかもな」
一本道を下っていくと、村の入り口と思しき場所に、木製の看板が立っている。矢印の下にあるかすれた文字は、『日女薙村へようこそ』『民宿はこちら』と読めた。こんなところにも民宿があったんだなと和真は感心しながら、車を進めた。娯楽が少なかった時代には、渓流釣りや山菜採りでもしてのんびり過ごす休暇も需要があったのかもしれない。
「おお、なかなか凄いな! いいじゃん、いいじゃん」
荒屋の立ち並ぶかつて村だった廃墟の中を抜け、桜の巨木が近づいてくると、ミツルのテンションが上がった。