Graduation 〜卒・行〜
〜国立名桜女子高等学校〜

卒業の季節を迎えた校内には、既に別れのムードが漂っている。

永遠の愛を誓い合う恋人達。
出逢えた幸せを、一生の宝として終《しま》う者。

進学率99%の学びの窓から、更に高見へと羽ばたいて行く若者達。

歴代卒業生の足跡が、毎年桜の木となり、校庭を鮮やかな和の色に染めている。


ただ、一本を除いては…



裏庭にある、咲かない桜の木。
ひっそりと立つ姿に、心残りに似た寂しさを感じていた。

「また見てるの?遥香《はるか》、結局今年も咲かなかったわね、『恋人の木』」

「胡桃《くるみ》はどう思う?どこかに100年に一度咲くと言う『恋人の木』があるって話し」

「オカ研で十分議論し、調査もしたじゃない。話が聞けたのは、ここではなくて別の桜よ。確かにこれも咲かないけどね〜。あっちもやっぱり咲いてないって言ってたわ」


如月遥香《きさらぎはるか》と相本胡桃《あいもとくるみ》。
小中高と、同じ系列校の連れであり、オカルト研究会の発起人である。

「ハートの形の花びら…見たかったな…」

「遥香はアメリカだもんね。咲いたら写真送るわね。私は東京《ここ》を離れないから」

「もう明日で最後かぁ…やっぱり寂しいね」

「卒業式の話、聞いた?」

「何?別にいつも通りじゃないの?」

「私の親、区の教育委員長だから、ここの校長の話を聞いちゃってさ。あの新しいイケメン校長先生ったら、迷信なんかに縛られず、新しい風を吹かせる❗️な〜んて意気込んじゃってね。《《普通》》にやるつもりよ、明日」

「普通…って…そんなまさか?」

「まぁねぇ〜、今では都市伝説からも消えてしまったことだし…あっ!…そっかぁ」

大変なことに気付いた胡桃。

「遥香…13番目だったね…」

毎年まるで伝統であるがごとく、13番目には、誰も座らず呼ばれもしない席が置かれていた。

くだらないと思って始めたのが、オカルト研究会であった。

遥香も信じてはいない。
しかし…それが自分となると話は違う。

「大丈夫だって!みんなで、十分調べたじゃない。あれはただの噂よ。…あ、しまった❗️私今夜は母に付き合わなきゃならないんだった💧ごめん、先に帰るね」

「有名な親を持つと、娘も大変ね。私は大丈夫だから、また飲み過ぎないでよ。今度バレたら卒業できないから!」

走りながら後ろ手でピース✌️する。

「さてと!私はお使いして帰らなきゃ。えっと…メモは…と、あれ?確か鞄に入れたはず」

鞄の中を除き込みながら、階段へと差し掛かった。

「キャ❗️」

駆け上がって来た生徒と鞄がぶつかり、転がり落ちた。

「あっちゃ〜💦ごめんなさい。気付かなくて」

走って行った廊下の方を振り向く遥香。
(あれ?…もういない)

誰だったかな?と考えながら、階段の踊り場へ降りて、散らかった物を拾い集める。

「あった!ラッキ〜」

メモを拾い上げようと手を伸ばした時。
その頬に…触れるほど近く。

ひらり…と何かがメモの上に舞い落ちた。

(えっ?…花びら?)

「どうかしたの遥香?はい、これ」

上がって来た同級生が、メモを拾って手渡す。

「あ…ありがとう」

振り返りもせずに過ぎて行く。

(ふぅ〜。何やってんだか)

そう思ってメモを見た遥香が凍り付く。

背筋を、まるで沢山の蟲が這い上がって来る様に、ゾクゾクっと寒気が走る。

(なに…これ…)

メモに染み付いた赤いもの。
まだ乾いていない。

慌てて、上や周りを見回すが、それらしいものは見当たらない。

4つ折りにしたメモ用紙。
それを貫いたかの様に、裏まで染みていた。

じわじわと恐怖が押し寄せて来る。
あの咲かない桜の木が、ふと想い浮かんだ。

(いやいや、そんなはずはない❗️)

それ以上は考えるのをやめ、急ぎ足で校門へ向かったのであった。

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