Graduation 〜卒・行〜
帰り道。

湯島天神そばの高校から、いつもは湯島駅で東京メトロ千代田線に乗り、お茶の水駅で中央線に乗り換える。

しかし遥香は、歩いて中央線お茶の水駅へと向かった。

母が書いたメモに従い、途中に新しく出来た鮮魚店に寄るためである。

老舗も立ち並ぶ商店街。
一際活気のある鮮魚店には、大勢の客が集まっていた。

あのメモを見せるわけにはいかず、記憶して店員に告げた。

「らっしゃい!おっ、前祝いかい?活きのいいやつが丁度あるよ!あんた可愛いから、サービスだ、ちょいと待ってな!」

頼んだ魚を持って店の奥へ消えた。
見たことのない魚たちに気を取られてる間に、店員が袋を持って戻って来た。

「はいよ!」

受け取ると、水に濡れた手を腰の手拭いで拭き、電卓を叩く。

「どうでい?」

そう聞かれても、相場が全く分からない。
困り果てた表情を勘違いした店員。

「しゃあねぇ!このキハダもオマケでどうでぃ?」

「そんなに💦私…分からないだけで…」

「いいってことよ!」

もう一つ袋を受け取り、お金を払って店を後にした。

予《あらかじ》め持って来ていたエコバッグを鞄から出して、ズッシリとした袋を入れる。

他のものも幾つか買い揃え、湯島聖堂と医科歯科大の間を抜けて、駅へと入った。

いつもの東京が戻って来る感じにホッとする。
電車の音が、アナウンスの声が…心地いい。

混んでる時間帯であったが、不思議と誰とも干渉せずに電車に乗り、吊り革に掴まる。

そうして、気が付いた。
その違和感に鳥肌が立つ。

(何かが…ちがう)

不器用な遥香は、いつも何度もぶつかりそうになり、電車内でも人波に押し流される。

そのはずだった。

(なに…これ?)
決して空《す》いてはいない車内。

自分の周りにだけ、一定の間《ま》があった。
エコバッグへの視線を感じ、そこへ視線を返すと、慌てて目を逸らす人達。

(何かが…おかしい)

駅に着くと、歩くのはやめてタクシー乗り場へと急いだ。

しかし…既に列ができている。
(どうして、まだこんな早いじかんに?)

そう思ったその時。

並んでいる人達が、一斉に自分を見た。
「ひっ⁉️」

(な…なんなのよ、これは⁉️)

仕方なく、急ぎ足で歩いた。

ずっと…誰かに見られている。
その感覚が纏《まと》わりついて離れない。

玄関に着くと、急いで入り、鍵を掛けた。

「おかえり。直ぐに夕飯にしましょ」

そう言って、エコバッグを受け取る母。

「お母さん、あのね…」

「ほらほら、遥香。早くしなさい」

(どうしてもういるの…?お父さん?)

何もかもが違った。
怖くなり、二階の部屋へ駆け上がる遥香であった。
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