Graduation 〜卒・行〜
〜霞ヶ関 警視庁刑事課〜

テレビでは、急遽帰国した坂上総理大臣が、悲しみに暮れた表情で記者会見を開いている。

「お気の毒ね…あの記者達は、いったい何を期待してんだか?今のご気持ちは?って、聞いてどうするやら…」

ソファに長い脚を乗せ、ボヤく咲。

「総理だろうが、ラーメン屋の娘だろうが、1人の命に違いはないのにな。不公平って言うか、確かに気の毒だな」

辻本が咲に便乗する。

「ほらほら、2人ともボヤいてないで、会議始めるぞ」

いつの間にか、捜査員が集まっていた。
会議室に移る2人。

「ではまずは、学校の方だ。例の13番目の娘《こ》はいたか?」

「報告します。確かに、亡くなった坂上紫乃譜《さかがみしのぶ》さんは14番目で、13番目には、阿良宮美里愛《あらみやミリア》という者がいるはずでした」

「阿良宮?…どこかで聞いた名だな…」

「はい。父親はジャズピアニストの阿良宮和哉《あらみやかずや》で、母親は同じバンドでボーカルのモナカ・グラミール」

「思い出した!ツアー中に出会って、不倫の末に人気の黒人歌手と再婚した、あの阿良宮か」

「そんなに有名人なの?」

「ジャズ界では知らない者はいないな。前妻の樋口詩織《ひぐちしおり》も有名なピアニストで、話題になったもんだ」

「…で?本筋を報告しろ」

「えっ…あ、そうだ💦 当日ドタキャンしたようで、教えて貰った住所にも行ってみたんですが…いませんでした」

歯切れの悪さが気になった。

「まさか、昨日から帰ってないとか?」

図星であった。

「はっきりはしないんですが…20階建てのアパートの18階に、ほとんど一人で住んでいて、近所付き合いもなく…。ただ、昨夜は電気が点かなかったと言うわけです」

「親はアメリカツアーの真っ最中で、未だに連絡もつかない始末で…」

「前夜祭に、友達の家に行ったとか?卒業式の前夜に、1人は寂しいだろう」

富士本が心配気に呟く。

「それが…高校では、親しい友人はいない…と言うか、あまり存在感が無かった感じで…」

「ハッキリしなさいよ!要するに、孤立してて、誰も阿良宮美里愛《あらみやミリア》について、話したがらなかった!ってことね」

「はい💦」

(さすが咲。もう仕切り始めやがった)
楽しそうに眺める、富士本であった。


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