Graduation 〜卒・行〜
恐怖による沈黙は、その恐怖を増幅させる。
巻き戻す勇気は起きなかった。

その代わりに、咲の口が、次を指示した。

「ゆっくり…進めてくれる。私が見たのは、これだけじゃない…」

「やめろよ、咲さん。冗談…」
「冗談…何か言える状況だと思う?」

辻本の言葉に声を被せ、逃がさない咲。
真剣な目で画面を見つめる。

「回せ」

富士本も命じた。

映像が続く。

被害者の前には、確かに1人…いた。
何故か顔は見えない。

確かに校長から、卒業証書を受け取っていた。

「校長は確かに、被害者の前の娘は欠席で、いなかったと言っていたぞ…あれは嘘か?」

「黙って❗️」

恐怖を誤魔化す辻本を、咲が再び引き戻す。

「ゆっくり…ゆっくり進めて」

卒業証書へ手を伸ばす紫乃譜《しのぶ》。
その上から、真っ直ぐに照明器具が近付く。

振り仰ぐ間もなく、坂上紫乃譜の体が無惨に潰されて行く。

何故か…誰も目を背けなかった。
いや…背け《《られなかった》》のである。

骨が砕け、肉が潰れて飛び散る。
その音が聞こえて来る気がした。

それほどに生々しい惨劇。

そして…

「止めて❗️」

咲の声に、ビクッ!となる皆んな。

「…やっぱり⁉️」

ゴクリ…
息を飲み込む音がした。

「こ…こ、拡大を…」

咲の指さす辺りに、違和感を感じた。

笹谷がゆっくり拡大していく。
と…その指が…固まった。

「…いた」

小さな咲の呟き。
そこに、否定できない《《モノ》》が…いた。

照明のあった場所。
真っ暗な闇に浮かび上がる…恐ろしい形相。

「な…何なんだあれは⁉️」

何人かがおもわず後ろに下がる。
それ程に強い恐怖。

「紫乃譜さんは死に際に、これを見た…」

恐怖に歪んだ、あの《《死面》》が蘇る。

「笹谷…もういい、消してくれ」

富士本が告げ、彼が画面を消す。
しかしその残像は、ハッキリと皆んなの頭に残っていた。

そして。
富士本も告白した。

「咲よ、お前がこれを見た時。…私は目の前に飛び出して来た《《何か》》を見たんだ」

「だからあの時、急ブレーキを?」

無言…

(当たりね…)

「明日、搜索願いを申請してみるか…やはり、何かある」

富士本の頭に、ある少女の姿が浮かんでいた。

(紗夜《さや》…)



申請は当然のように却下された。
しかし、連絡のついた阿良宮美里愛《あらみやミリア》の両親が帰国し、事故から10日後に、やっと搜索が始まった。

だが…何も進展がないまま、捜索は打ち切られたのであった。
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