火の力を持つ国王様は愛も熱い
私はこんなところにいるべき人間ではない。
いたたまれない気持ちになり、急いで元の道へ戻ろうとすると手を掴まれる。
「確かに過去にここアクアヴェールを滅ぼしたのはライマーレ王国ですが、ルーナ姫様が生まれるずっと昔の事です。この場所を気に入ってくださるならどうか気を負わずに好きなだけいてください」
「…でも」
「実はここは僕が王族の仕事として初めて整備を進めている場所なんです。だから気に入って貰えると嬉しいです」
「そうだったのですね、ここは空気が澄んでいて流れる水の風景がとても綺麗なので…是非また遊びに来させてくださ…クシュンッ」
王子様の前で…くしゃみしてしまって恥ずかしい…
一応ドレスの上に見映えだけのケープを着ているけど、本当に見栄えだけで風通しがよく何も暖かくない。
すると、アクア王子様は羽織っていたコートを脱いで私の肩に掛けた。
「ライマーレ王国とは気温が違いますからね、気付かず申し訳ございません」
「そんな!アクア王子様のお体が冷えてしまいます!」
「大丈夫です、僕は…火の力がありますので、寒さには強いのです」
そうか、火の力があると体温も上げられるのかな?
私もフォース持ちだけど、弱いから普段の生活で何の役にも立たない…
力があったとしても電気で動く物体がなければ使い道ないけど。
「ルーナ姫様ー!お迎えの馬車が到着致しましたー!」
「はい、今行きます!」
「それではお城まで御一緒させていただきます」
アクア王子様はそう言うと手差し出してエスコートしてくれた。
お迎えに来てくれた馬車はかなり立派な馬車で、こんな立派な馬車はうちのお城の倉庫で古く壊れている物しか見た事がない。
扉が開くと、中から栗色の髪をしたお人形さんの様に可愛い女の子が出てきた。
「初めまして♪アヴァンカルド王国姫、アリス・アヴァンカルドと申します!ライマーレ王国のルーナ姫様ですか?」
もう何もかも可愛い!
「はい、ルーナ・ライマーレです、アリス姫様この度は御出迎え」
「もうお堅い挨拶大丈夫だよー!同じ歳って聞いたんだけど、ルーナって呼んでもいい?」
アリス姫様は人懐っこいのか私にギューッと抱き着いてそう言った。
「アリス、ルーナ姫様に無礼だろ」
「いえ、全然構いません…そう呼んでもらえると嬉しいです」
「じゃあルーナね!私の事も姫様とか付けなくていいから!」
「それはアリスだけズルくない?ルーナ姫様、
俺の事も王子とか付けなくていいから」
さっきまで王子様の様に振舞っていたアクア王子様も急にフランクになった。
うちの従者とはここで別れて二人と共に馬車でお城へと向かう。
隣国でありながら元々は敵国関係の同士の国の私は特に最初はここでは冷たくあしらわれてもおかしくないのに、ここのお姫様と王子様はうちの国に興味津々で、馬車の中で質問攻めで二人があまりにフレンドリーだから名前も呼び捨てで呼び合うようにまでなってしまった。
馬車はあっという間にお城へ着いた。
「ルーナ、エスコートするよ」
馬車を降りる時にアクアは手を取ってエスコートしてくれる。
「ありがとう」
私が降りた後にアクアはアリスの事もエスコートする。
「ほら、アクアこれ羽織なよ。風邪引いちゃうよ」
アリスはそう言ってアクアにマントを羽織らせる。
「あ、コート借りたまま…すぐ返すね」
お城の前は雪が降っていて、水門のところよりもだいぶ寒かった。
この寒さだといくら火の力があっても寒いよね…でもアクアに気をかけるアリスは7分丈の袖のドレスのままだ。
「返さなくて大丈夫だから!ルーナはそれ着てないと凍えちゃうよ!さっ、こっちこっち!お父様とお母様に紹介するね!」
アリスはそう言って私の手を繋いだ。
アリスが手を繋いでくれた時にふと思った。
アリスの手がすごく暖かいのに対して、アクアの手はひんやりしてた気がする。
ちょっとした事だけど、何となく違和感を感じた…まぁ、いっか。
これから初めての土地で暮らすのだからそんな小さい事気にしてる場合じゃないよね。