あなたを憎んでいる…でも、どうしようもなく愛してる
父親
大きな引き戸になっているドアを、ゆっくりと開けた。
部屋の中央部に大きなベッドが置かれている。
上半身が少し上がるように、ベッドの角度が上がっていた。
部屋はとても広く、高級なホテルの部屋のようだった。
窓も病院とは思えないほど大きく、太陽の光が部屋の奥まで差し込んでいる。
とても気持ち良い部屋だ。
ベッドには男性が、寝ているようだ。
私は神宮寺に続き、その男に近づいてみた。
「えっ……あ…あ…あなたは…。」
私は息が詰まった。
声が出なくなるような衝撃だ。
…えっ…お父さん?
次の瞬間、私は狂ったように大きな声で叫んでしまった。
「お父さん!お父さん!!桜です。お父さん!!」
しかし、お父さんと思われるその男は何も反応しない。
ジッと遠くを見つめる目だ。
その目には力が無くただ目を開けているだけという感じだった。
すると、神宮寺が私の肩に手を置いた。
「伊織、…君のお父さんは記憶喪失なんだ。自分の名前も分からない。」
「そ…そんな…噓でしょ!」
私はもう一度、お父さんに呼びかけてみた。
「お父さん!お父さん!私は桜だよ…お父さん!」
暫くして、お父さんは口を開いた。
真っすぐ私を見ている。
「あの…どちら様でしょうか?」
…ショックだった。
娘の顔も忘れてしまったのだろうか。
神宮寺が横で話を始めた。
「君のお父さんは、自殺未遂だった。たまたま俺は休日に、お父さんの会社を訪ねたんだ。そして、俺が事務所に入った時、既に首をつっていて…突然のことに俺は慌てたよ。すぐに降ろして救急車を呼んだんだが…ほとんどの記憶が消えてしまったようで、自分が誰なのかもわかっていないようだ。」
「じ…自殺…自殺未遂って…そんな…」