あなたを憎んでいる…でも、どうしようもなく愛してる
「お父さんの会社のデスクには、遺書のような書き置きがあった。そこには、たった一言だけ書いてあったんだ…。」
「な…何が…書いてあったのですか?」
神宮寺は大きく息を吸って、目を閉じた。
「自分が死んでも、どうなっても、自分の家族には知らせないで欲しい…そう書いてあったんだ。」
「そんな…お父さん…なぜ…。」
神宮寺は私の肩にそっと手を置いて話を続けた。
「俺は悩んだ…だが、お父さんの意思を尊重することにしたんだ。家族には知らせずに、病院に入院させることにした。そして、時期が来たら、君にはお父さんのことを知らせるつもりでいたんだ。」
「神宮寺社長、それではずっとそれから父の面倒を、見てくださったのですか。」
「あぁ…俺の責任だからな。」
頭が混乱する。
ずっと今まで、憎み続けて来た神宮寺が、父親を面倒見てくれていたなんて。
いろいろな事が起こりすぎて、頭の中が真っ白になった。
「伊織 、君のことも勝手に遠くから見守って来たつもりだ。大人になったな…桜」
そう言われてみれば、幾つか思い当たることがあった。
誕生日には毎年、歳と同じ本数のバラが届いていた。
そして、定期的にお金も振り込まれていたのだ。
このお金は、どこかで父親が送ってくれているのではないかと思っていたのだ。
全て神宮寺が、私にしてくれていたのだろう。
そう考えれば辻褄があう。
そんな神宮寺を、私は恨み続けていたのだ。
「桜、お前は復讐のために、この会社に来たのだろ?俺が憎いのは知っている。」
「……………」
返す言葉が無かった。無いというより、見つからないのだ。
神宮寺はやはり全てを分かっていたのだ。
「確かに私は、復讐のために神宮寺社長へ近づきました。私は今までずっと長い間、神宮寺社長にお世話になりながら、あなたを恨んでいたのですね。」