あなたを憎んでいる…でも、どうしようもなく愛してる
父と対面して約一か月。
私は時間が許す限り、父の病院へと通っていた。
まだまだ、父は何も思い出してはくれないが、何回か通ううちに私の顔は覚えてくれた。
それだけでも十分に嬉しい。
「いつも、ありがとうございます。お嬢さん。」
「好きで来ているので、気にしないでくださいね。」
いつしか、父は私の事を“お嬢さん”と呼ぶようになっていた。
記憶が無くても、父と過ごす時間は嬉しかった。
ただ、まだ母親には父のことを伝えていない。
どれだけショックを受けるか、考えただけでも恐くなる。
何も知らない母は最近、私の結婚話ばかりするようになってきた。27歳にもなれば仕方がない事でもある。
そして、いつも話の最後には、お父さんが戻って来たら私の花嫁姿を見せたいと言って涙を流すのだった。
その姿を見ると、心臓を誰かにつかめれたように胸が苦しくなる。