あなたを憎んでいる…でも、どうしようもなく愛してる
病院の中には小さなコンビニがあった。
私はそこで缶コーヒーを二つ購入する。
少し歩くと、病室から見えていた中庭に出られる扉を見つけた。
鍵は開けてあり、誰でも出られるようになっている。
私は中庭に進み、木造の可愛いベンチを見つけ、そこに腰かけた。
昔懐かしい感じの、手作りのような木造ベンチだった。
ベンチに座り、空を見上げると、太陽が眩しく輝いている。
今日は、とても良い天気だ。
窓から見えていた、深い緑の枝葉がサワサワと揺れている。
窓からは見えなかったが、中庭の端には小さな池もある。
小さな虫が、水面からびょんと小さな飛沫を上げている。
すると、後ろから誰かの声が聞こえて来た。
「桜ちゃんかな?」
声を掛けたのは、医師の速水だ。
どうやら休憩時間のようで、手には四角いパックの飲み物を持っている。
私は泣いていたことに、気づかれないようにと下を向いた。
すると、速水は私が座るベンチの隣に腰かけた。。
「…神宮寺に、虐められたか?」
速水は少し冗談を言うように悪戯な表情で笑った。
私が何も言わず下を向いていると、独り言を呟くように話し始めた。
「…僕と神宮寺は学生時代からの腐れ縁なんだ。さっき昔を思い出していたんだけど、神宮寺が珍しく酒に酔ったことがあって、家に泊りに来たんだ…普段あんまり自分の事を話さない神宮寺が、自分の話をしたことがあってね。」
私がゆっくり顔を上げると、速水は私を見て微笑んだ。
「神宮寺が言うには、一番憎まれている女に、どうやら自分は惚れてしまったようだってね。その時の僕には全く意味が分からなかったけど、桜ちゃんは解かるのかも知れないね。」
私が言葉を失い、固まっていると、速水は私の肩をポンと叩いた。
「神宮寺はモテるくせに、女の子に誤解させやすいからな…でも、神宮寺が惚れたと言っていた女性はそれが最初で最後だよ…寄って来る女性は遊びで付き合うけど、愛していたのはその女性なんじゃないかな?」
速水はそれだけを言うと、座っていたベンチから立ち上がった。
そして、天に向かって両手を広げて伸びをした。
そのまま、何も言わずにどこかへと歩いて行ってしまった。