あなたを憎んでいる…でも、どうしようもなく愛してる
私は席を立ち、店の外で携帯を確認した。
電話は、悠斗さんからだった。
仕事の要件かも知れないので、私は急いで電話を折り返した。
「…はい。伊織です。」
「桜、今どこにいるの?」
「えっと…友達と、ご飯を食べていたところです。でも…そろそろ帰ろうと思います。」
鳴海と一緒にご飯を食べていることを、隠す必要は無いけれど、なんとなく後ろめたい気持ちになった。
「そう…よかったら迎えに行ってあげるよ。どの辺でご飯食べているの?」
「あの…ええと…自分で帰れるので…大丈夫です。」
その時だった、なんと鳴海が私に声を掛けたのだ。
「桜ちゃん、急用なら僕のことは気にしないで…行って良いからね?」
鳴海の声は、電話を通して悠斗さんに聞こえたはずだ。
心臓が激しく大きな音を立てる。
すると、明らかに声のトーンが低くなった悠斗さんの声が聞こえた。
「桜…お友達は、男なの?」
どうしたら良いのだろうか?これ以上嘘はつきたくない。
「悠斗さん…誤解しないでください…ただ、ご飯食べていただけなので!」
少しの沈黙が苦しい。心臓はさらに大きな音を出している。
「…そう、じゃあ迎えに行くから、店にいてくれる。何ていう店かな?」
もう嘘はつけない。それにつきたくない。
私はこのお店の名前を伝えた。
鳴海を見て、悠斗さんは何と言うだろう。
電話を切った私は、席に戻り鳴海を真っすぐ見た。
「鳴海さん、これから私を迎えに来てくれる方がここに来ます。…でも驚かないでくださいね。」