おおっぴらでひそやかな、恋の伝え方
「緊張してますか」


ペットボトルを握りしめていると、横から声がかかった。


かちりとしたスーツに身を包んだ指揮者の先生が、穏やかに微笑んでいる。


「はい。かなり」


答える声はしりすぼみになった。


今日は、大好きな合唱をしたくて入団した社会人合唱団のひとたちと、合唱コンクールの地方大会に来ている。もうすぐ出番。


合唱団の全体数が少ないわたしの地区では、地区大会を勝ち進むのは難しくない。地方大会となると、全国七地方で争うことになる。


今年は一般部門に十三の団体が出場する。


そのうち、金ひとつ、銀ふたつ、銅ひとつの四団体が全国に進むので、地方大会は重要な大会だった。


そんな大舞台でソリストをするのだから、緊張するのも無理はない……とおもう。たぶん。


事前に配られた楽譜によれば、今年用意された課題曲は八曲。


八曲全部を歌うのではなくて、A、B、Cなどと三曲ずつに組まれた組み合わせからひとつ選び、三曲発表する。


三曲のうち、一曲は必ずソロが入る組み合わせで、女性のみ、男性のみ、などと異なるソロが入る。


全員で相談して、女性が多い団なので、女性のソロがあるCを選んだ。


その結果、ソリストは、オーディションによって公平にわたしが選ばれた。だからこうして、緊張にお腹を痛めながら、じっと出番を待っている。


……うーんこまった。何度考えてもたおれそう。
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