おおっぴらでひそやかな、恋の伝え方
視界が滲んだ。唇がわななくのをおして、声が震えないように、慎重に音をのせた。


——ひとつ、おまじないを差し上げましょう。


「先生」

「はい」


——今日は、ぼくのために歌ってください。


「おまじないを、ありがとうございました」

「おや。おまじない、効きましたか」

「ええ、とってもよく効きました。おかげさまで、危機的な高音になったと思います」


——恋に落ちたところなわけだから、予定調和じゃなくて、ハッと息を飲むような危機的な高音が欲しいんですね。


目の前のひとが目を見開いた。


「ええと」


先生。

わたし、あなたに向けて歌ったんです。

指揮を見る意味だけじゃなくあなたを見て、歌ったんです。


「……それは、そういうことで構いませんか?」


「そういうことで、構いません」


これは、おおっぴらでひそやかな、恋の伝え方。





Fin.
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