おおっぴらでひそやかな、恋の伝え方
おどけた言葉が、すとんと落ちてきた。


指揮を見ないと歌が走ってしまうから、指揮は必ず見る。必然的に、先生を見る。なるほど、イメージなどいらないわけである。


「だいじょうぶ。あなたはぼくが選んだひとですよ。失敗してもぼくの責任だ」


実際には、先生とコンサートマスターとパートリーダーが相談して選んだ。


でも、ここでおどけてくれるところが、責任は自分ひとりで負うところが、このひとが指揮者たるゆえんだろうと思った。


失敗しないよ、とか、練習を信じて、とかではなくて、失敗してもだいじょうぶ、と言うところが、このひとが慕われるゆえんだろうと思った。


だいじょうぶですよ、と柔らかな声が降る。


「あなたは僕が選びました。あなたの声で歌ったら、どんな歌になっても、少なくとも、ぼくの一番好きな歌に違いありません」

「っ」


こういう、ところが。


……臆面もなく言えてしまうところが、すごいなあと、思う。
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