おおっぴらでひそやかな、恋の伝え方
『中央ドより上の方が響きますね。まだ若いから鍛えればもっと上も出るようになります。トップいきましょう』


『オーディションの結果、あなたにソロをお願いしたいと思います』


『ぼわーじゃなくて、声を絞って始めましょう。最初が肝心です』


『張り上げないで。あんまり高くないから、あなたなら優しく歌っても出ます』


『もっと鐘の音みたいにしましょう。歌詞を見るに、高音はきらきらっとしてほしいわけです』


『そこはビブラートかけないように頑張ってお腹で支えて。そこは発音違うからもっと口縦にして』


『こうね、夢見る感じが欲しいんですね。特にトップはふらついたメロディーでしょう。恋に浮かされてるので夢見てふらついてください。でも音は外さないで』


『十拍、まっすぐしっかり伸ばしましょう。十拍目にバスと当たるまでよく聞いて。いち、に、さん、し、ご……あと少しですねえ』


『恋に落ちたところなわけだから、予定調和じゃなくて、ハッと息を飲むような危機的な高音が欲しいんですね』


『最後は余韻が欲しいので、すぐに口を閉じないで。一拍待って』


『苦しそうだと恋に溺れてるみたいなので、伸びやかに恋に落ちましょう』
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