おおっぴらでひそやかな、恋の伝え方
ソロが終わって、ほっと口を閉じる。


指示と指示の間、素早く淡い微笑みを向けられて、こまやかな気配りをするひとだなあ、とぼんやり思いながら、続く三声に向けて準備するべく、バスのフラットを聞いた。





結果として、わたしたちは金賞をとった。


実感はまだ湧かないものの、全国に行ける喜びでふわふわしている。

打ち上げは前々から計画してあったけれど、楽しい雰囲気になりそうでよかった。


衣装の真っ白なドレスのままでは歩きにくいので、一旦解散し、それぞれ着替えてからお店に集合することになる。


荷物をまとめるわたしの背中に、走ってきたらしい荒い息が重なった。


「あれ、先生。どうされました?」

「まだいてよかった。これ、審査員の先生方からの講評です」


はい、と、今しがた配られたばかりだという走り書きを渡される。はじめに目についたのは、斜めに傾いた字だった。


『各パートがお互いによく聞き合っているとわかりました。特にソロがよかった。伸びやかで、ひたむきな歌いぶりでした。全体を通して大変素晴らしかったです。金賞おめでとうございます』


……きつく唇を噛む。


穏やかな審査員の先生の顔が浮かんだ。


穏やかながら、はきはきとものを言うひとだった。ソロが苦しそうだった、走っていた、と書かれた年もあったはずだ。


「ソロが褒められていたのでお知らせしなくてはと思って。おめでとうございます。それから、ありがとうございます」


あなたにお願いしてよかった。


「全国でもよろしくお願いします」
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