貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜
始まる
 ホテルの部屋に戻った真梨子は、満足気にソファに倒れ込む。あの濃厚な海老の旨味……思い出すだけでうっとりする。

 すると隣に座った譲が、真梨子の髪に触れた。その手がゆっくりと頬の上を滑り、顎に到達する。

 真梨子は緊張を隠せず、固まってしまう。もう離婚届は提出した。私は独身に戻り、これからは何をしても不倫ではない。

 譲の顔が近付き、真梨子の唇を塞ぐ。軽く唇を合わせ、それから貪るようにキスをされる。もう長いことキスなんてしていなかった真梨子は、あまりにも久しぶりの感覚にうっとりと目を閉じた。

 しかし譲は慌てて離れ、困惑して下を向いてしまう。

「ごめん、ちょっと飛ばしすぎた」

 今のキスで火をつけられてしまった真梨子は、我慢出来ず譲の体に抱きついた。

 こんなことを口にしていいのかわからない。でも心も体も譲を欲しているの。

「ねぇ譲……あれから十二年も経って、もう体もあの頃より自信ないんだけど……友達としてでいいから、今日だけでいいから、また私のことを抱いてほしい……」

 しかし譲は唇を噛み締めながら真梨子をじっと見つめ、首を横に振った。

「……それは無理だよ」
「そ、そうよね……ごめんなさい」

 断られ、真梨子は傷付いたように譲から離れようとした時だった。譲の腕に抱きしめられ、身動きが取れなくなる。

「友達としては無理だ。だって俺はもう真梨子を愛してるからね。たくさん愛を囁いてもいいというのなら、真梨子がギブアップするまで抱き潰す。どうする?」
「それ……本当?」

 真梨子が信じられないという顔で譲を見つめると、彼は優しく微笑み額にキスをした。

「嘘なんかつかない。この一週間、俺がどれだけ我慢してたか気付かなかった?」
「そんなの……わかるわけないじゃない……! だってあなたはいつも変わらなくて……ん……」

 譲は再び真梨子の唇にキスをすると、彼女の唇を舌でなぞり始める。

「で、抱き潰していいの?」
「……ギブアップなんかしないわ……! だから……めいっぱい愛して欲しい……」
「了解」

 絡み合う舌に酔いながら、譲は真梨子の服に手をかけた。
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