貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜
 真梨子は部屋を漂う、美味しそうな匂いで目を覚ます。しかし体が怠くて、ベッドの中で動けず丸まっていた。

「おはよう、真梨子」

 隣では譲が肩肘をついて横になりながら、満面の笑みを浮かべて真梨子の髪を撫でている。

「ねぇ……私セックスするのが久しぶりって言ったわよね……それなのにちょっと回数が多くない?」

 口を尖らせる真梨子が可愛くて、譲はすかさずキスをする。ゆっくり味わうように舌が絡み、真梨子は思わずうっとりと目を閉じた。

 年甲斐もなく、恋する少女のようなときめきを感じている。

「俺だって久しぶりだったよ。でもほら、俺って真梨子中毒だからさ、つい止まらなくなっちゃったんだ。なんならまだしてもいいけど」

 これだけしたのにまだ出来るの……? 真梨子はため息をつく。

「……せめて夜にしてくれる? さすがに休憩したいわ」
「あはは! 了解」

 ふとテーブルの上を見ると、美味しそうな料理がたくさん並んでいた。

「……もしかしてルームサービス頼んでくれたの?」
「まぁね。きっと真梨子は動けないんじゃないかと思って」

 譲はニヤニヤしながら真梨子を眺める。そして愛おしそうに唇を重ねた。離れようとすると、今度は真梨子が譲の首に腕を回す。

「ま、真梨子?」
「……ルームサービス、ありがとう……。ちょっと怠かったから助かったわ……」

 恥ずかしそうに呟く真梨子を、譲は顔を真っ赤にして見つめる。

「ねぇ……真梨子……」

 しかし真梨子が手を出して制止する。

「夜って約束したでしょ」
「……だよね。うん、そういう真梨子が大好きだよ」

 譲はベッドから立ち上がると、クローゼットからローブを取り出して着る。そしてもう一着を真梨子に手渡した。

「ありがとう」
「いいえ。まぁ俺としては裸でもいいけど」

 譲の言葉を無視してローブを羽織ると、腰紐を結んだ。

「こうして二人で朝まで一緒にいるのって、あの日以来だよな」
「……クリスマスの旅行よね。覚えてる」

 一度だけ譲に誘われて、彼の車で一泊で千葉の房総へ行ったことがあった。観光をして、クリスマスディナーを楽しんでから、二人で朝を迎えたのだ。だけど朝まで一緒に過ごしたのはその日だけ。

 楽しかった記憶が蘇り、真梨子は笑顔になる。

 すると譲は真梨子を抱き上げソファに座らせた。

 こんな年になってもお姫様抱っこが嬉しいなんて、なんだかくすぐったい感じ……。

 譲の行動は私への心を感じるの。彼の自己満足ではなく、私を思い遣っての優しさに、胸が熱くなった。
< 106 / 144 >

この作品をシェア

pagetop