貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜
 紙袋にカバンをしまいながら、匠は真梨子の方を向いた。

「あの、先生って兄さんと知り合いだったんですか? 兄さんから先生と付き合うことになったっ聞いた時、てっきり最近知り合ったのかと思ってたけど、さっきの二人の様子を見てたら違う気もして……」
「あぁ、彼とは古い友人よ。と言っても、あの頃は体の関係が中心のお友達だったけど」

 真梨子の言葉で、その場の空気が凍りつく。

「そ、それって……」
「そう、セフレよ」
「……!」

 顔を見合わせて慌てふためく二人を見ながら、真梨子は笑い出す。

「そんな慌てるような話じゃないわよ。お互い学生だったし、そんなことだってあるわよ。あなたたちだってそうでしょ?」
「うん……確かにそうですね。真梨子さんとお兄さんは、もうずっと会ってなかったんですか?」
「そう。あなたとバーで飲んだ日に、久しぶりに再会した……。その時にね、副島くんと譲が兄弟だってことを知ったのよ」

 真梨子はふと手を止める。

「本当に副島くんには悪いことをしたって反省してるわ……。私ね、彼に振られるのが怖くて、自分から離れたの。なのに夫と上手くいかなくなって、それから思い出すのは譲のことばかり……。だから譲に似ているあなたを代わりにしようとしたのね。本当にごめんなさい」

 真梨子が頭を下げたものだから、匠は驚いて首を横に振る。

「確かにあの時は傷付いたけど、そのおかげで二葉と出会えたから……もう大丈夫です。それよりも兄さんに目の敵にされてて……今はそっちの方が怖いくらい……」

 意味がわからず真梨子は首を傾げる。それを見た二葉が笑いながら口を開く。

「お兄さんは妬いてるんですよ。それくらい真梨子さんが好きで好きで仕方ないんでしょうね」
「……彼は私のことを怒ってないかしら……。勝手に別れを告げて……まさか、私が本気になった瞬間に捨てられる……⁈」

 顔面蒼白の真梨子を見て、今度は二葉と匠が笑い出す。

「それはないです。兄さん、今いろんなところに根回し中ですから。むしろ逃げられないって覚悟した方がいいですよ」
「うんうん。たぶん真梨子さんの想像以上のスピードで進んじゃうかもしれませんよ」

 この二人は何か知ってるのね……でも楽しそうだし、不安にならなくてもいいのかもしれない。

「……そうなの? じゃあ驚く準備でもしておくわ。さ、続きをやっちゃいましょう」

 半年後に結婚と言われているだけでも想像以上。まだ他に何かあるの?
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