貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜
匠と二葉を見送った真梨子は、ホッとしたように肩を落とす。
「お疲れ様。疲れた?」
「えぇ、ちょっと……でも二人がよく手伝ってくれたから、思ったより早く終わったと思う。譲も待ちくたびれたわよね、ごめんなさい」
車に寄りかかり、真梨子は申し訳なさそうに言った。しかし譲は首を横に振り、同じように車に寄りかかると、真梨子に微笑みかけた。
「大丈夫だよ。少し溜め込んでた仕事を片付けたりしてたからね。もう……残してきたものはないかい?」
その言葉は、きっと荷物のことを指しているわけではないことを直感で理解し、真梨子は譲に笑顔を返す。
「……もう何も残ってないわ」
真梨子が言うと、譲は安心したように彼女の頭に手を載せる。
「うん……それなら良かった。じゃあそろそろ行こうか」
真梨子が頷いた時、一台の車が駐車場に入ってくるのが見えた。白いセダンはよくある車種だったが、それが徐々に近付いてくると、真梨子の表情が徐々に青ざめていく。
譲はその気配を感じ、手を下ろすと車の方へ視線を向ける。白いセダンは二人の前に停まり、中から晃が険しい表情を浮かべて飛び出してくる。
今日は帰らないと約束したはずじゃない。私が約束を守らないと怒るくせに、この人は平気で約束を破ってくる。
「真梨子……! やっぱりまだいたんだな……。帰り際にこの間の二人とすれ違ったから、もしかしたらと思ったんだ」
この間の二人とは、きっと匠と二葉のことだろう。そうだとしても、こうして会おうとするのはおかしい。
晃は真梨子の隣にいる譲に気付き、怪訝そうな表情になる。上から下まで見てから、きつく睨みつけた。
「真梨子、この方は?」
その言葉に真梨子は嫌悪感を示す。もう二人の間には何もないはず。
「あなたに関係ないでしょ……」
言いかけた真梨子を譲が手を差し出して制する。譲は表情を変えずに晃を見据えた。
「真梨子の大学時代の友人です。引越し作業を手伝って欲しいと言われたので、友人数名と先ほどまで作業をしていたんですよ。車の運転があるので、私だけ残っただけです」
譲がはっきりと言い切ったので、晃は不愉快そうに口を閉ざす。
「そうでしたか。それはありがとうございました。私は妻と少し話がしたいので、二人にしていただきたいのだが……」
真梨子は驚いた。今更何を言っているの? これまで話そうとしても拒否したのは誰? もう何も話すことなんかない……。
真梨子の様子を察した譲は、近寄ろうとした晃との間に割って入る。
「失礼ですが、もうお二人の間に婚姻関係は存在しません。たとえ元夫婦であっても、彼女の気持ちを尊重していただきたい」
「……他人が横から口出しをしないでくれ。元夫婦であっても、十年一緒にいたんだ。君なんかより余程真梨子のことを知ってる!」
晃は譲に怒鳴りつけると、真梨子の腕を掴む。その瞬間、真梨子は晃の手を振り払った。
「……十年も一緒にいたって、あなたは話そうとしなかったじゃない。もう無理。今更話すことはないわ」
「真梨子……!」
「さっ、行きましょう」
譲の腕を引いて車へ促す。その時晃が譲の腕を掴んだ。
「お疲れ様。疲れた?」
「えぇ、ちょっと……でも二人がよく手伝ってくれたから、思ったより早く終わったと思う。譲も待ちくたびれたわよね、ごめんなさい」
車に寄りかかり、真梨子は申し訳なさそうに言った。しかし譲は首を横に振り、同じように車に寄りかかると、真梨子に微笑みかけた。
「大丈夫だよ。少し溜め込んでた仕事を片付けたりしてたからね。もう……残してきたものはないかい?」
その言葉は、きっと荷物のことを指しているわけではないことを直感で理解し、真梨子は譲に笑顔を返す。
「……もう何も残ってないわ」
真梨子が言うと、譲は安心したように彼女の頭に手を載せる。
「うん……それなら良かった。じゃあそろそろ行こうか」
真梨子が頷いた時、一台の車が駐車場に入ってくるのが見えた。白いセダンはよくある車種だったが、それが徐々に近付いてくると、真梨子の表情が徐々に青ざめていく。
譲はその気配を感じ、手を下ろすと車の方へ視線を向ける。白いセダンは二人の前に停まり、中から晃が険しい表情を浮かべて飛び出してくる。
今日は帰らないと約束したはずじゃない。私が約束を守らないと怒るくせに、この人は平気で約束を破ってくる。
「真梨子……! やっぱりまだいたんだな……。帰り際にこの間の二人とすれ違ったから、もしかしたらと思ったんだ」
この間の二人とは、きっと匠と二葉のことだろう。そうだとしても、こうして会おうとするのはおかしい。
晃は真梨子の隣にいる譲に気付き、怪訝そうな表情になる。上から下まで見てから、きつく睨みつけた。
「真梨子、この方は?」
その言葉に真梨子は嫌悪感を示す。もう二人の間には何もないはず。
「あなたに関係ないでしょ……」
言いかけた真梨子を譲が手を差し出して制する。譲は表情を変えずに晃を見据えた。
「真梨子の大学時代の友人です。引越し作業を手伝って欲しいと言われたので、友人数名と先ほどまで作業をしていたんですよ。車の運転があるので、私だけ残っただけです」
譲がはっきりと言い切ったので、晃は不愉快そうに口を閉ざす。
「そうでしたか。それはありがとうございました。私は妻と少し話がしたいので、二人にしていただきたいのだが……」
真梨子は驚いた。今更何を言っているの? これまで話そうとしても拒否したのは誰? もう何も話すことなんかない……。
真梨子の様子を察した譲は、近寄ろうとした晃との間に割って入る。
「失礼ですが、もうお二人の間に婚姻関係は存在しません。たとえ元夫婦であっても、彼女の気持ちを尊重していただきたい」
「……他人が横から口出しをしないでくれ。元夫婦であっても、十年一緒にいたんだ。君なんかより余程真梨子のことを知ってる!」
晃は譲に怒鳴りつけると、真梨子の腕を掴む。その瞬間、真梨子は晃の手を振り払った。
「……十年も一緒にいたって、あなたは話そうとしなかったじゃない。もう無理。今更話すことはないわ」
「真梨子……!」
「さっ、行きましょう」
譲の腕を引いて車へ促す。その時晃が譲の腕を掴んだ。