貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜
 晃はキッと譲を睨みつける。

「……おい、どういうことだ……」
「……何がですか?」
「この匂いだよ。俺は知ってるぞ……真梨子から時々この匂いがしてた。普段の香水とは違うから覚えてるんだ……。まさかお前……!」

 真梨子ははっとし、息が止まりそうになる。晃に気付かれていたんだ。

「た、たまたま同じ香水なだけよ。どこにでもある香水なんだから……」
「いや、おかしいと思ってたんだ……。時々寝る前ににもつけたりしてたよな。お前、俺を裏切ってたんだな⁈ そうだろう⁈」
「違う! そんなことしてないわ! 勝手な憶測で話をしないで!」
「お前たち二人で俺を馬鹿にしてたんだな!」
「もうやめて! あなたのそういうところが嫌いよ! 人の話を聞かないで決めつけて、自分の意見を押し付ける……もううんざり!」

 譲は冷静に晃の腕を掴んで離すと、真梨子の肩を優しく叩いた。真梨子は譲の顔を見ることが出来なかった。それでも肩に触れる手の温かさに、体の強張りが解けていくようだった。

「あなたが何を仰っているのかわかりませんが、私と真梨子が再会したのはここ最近のことです。ですから、たまたま私の香水と彼女の香水が同じだっただけでしょう」
「貴様……よくも抜け抜けと……!」
「それに、私が知っている真梨子は真面目で正義感に溢れ、それでいて心の優しい女性です。間違ったことは決してしない。もしあなたがそれを疑うのであれば、彼女がそうなる闇があったはずだ。それともあなたには心当たりがあるのですか?」

 真梨子は溢れ出る涙を見られないよう、二人に背を向けた。

 どうして譲はこんなに私のことがわかるのかしら……欲しい言葉を知っているのかしら……。

 晃はやり場のなくなった手を握り締め、唇を噛み締めていた。

「俺は何もしていない。真梨子のわがままに付き合いきれなかっただけだ。君の知ってる学生時代の真梨子とはもう違うはずだよ。話してみればわかるさ」

 そう言い捨てると、晃は鼻で笑った。
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