貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜
 思わず声を上げる真梨子の顔を引き寄せ、キスを繰り返す。

「……香水は寝る前につけたの?」

 真梨子はキスの熱に浮かされながら頷く。

「俺に抱かれる夢でも見てた?」

 返事の代わりに、真梨子は腕を譲の首に回し、自ら彼を求めてキスをする。

「……私ね、たとえセフレでも、譲と一緒にいる時間が好きだった……。良い思い出しかないの……。いつの間にかあなたを愛してるって気付いて、あなたに求められると幸せで……なのにあなたを失った後は喪失感の方が大きくて、振られてもいいからちゃんと気持ちを伝えれば良かったってずっと後悔してた……」

 譲はキスをしながら真梨子のシャツのボタンを外していく。シャツとキャミソールを脱がせ、ブラジャーのホックを取ると、露わになった胸の頂きを口に含み、舌でじっくり舐る(ねぶ)る。その瞬間、真梨子の体は大きく弓形になった。

「夢の中の俺は、こんなふうに真梨子を愛したのかな? どう? 真梨子を気持ちよくさせてた?」

 真梨子の口からは甘い吐息が漏れ、体を震わせる。

「ん……覚えてない……だって夢の話だし……」

 体中に感じる刺激が強すぎて、真梨子の思考回路は使い物にならなくなる。しかし譲の指も舌も真梨子を攻め続ける。

「ほら、ちゃんと続けて……」
「こんな状況で……? 無理よ……んっ……」
「ねぇ真梨子……あの頃、俺のことを好きだった?」

 譲に問われ、真梨子はただ頷いた。

「ちゃんと言葉にしないとダメだよ。だって真梨子、まだ言ってない言葉があるだろ? 俺は十二年前からずっと、その言葉を待ってるんだよ」

 すると真梨子は眉間に皺を寄せて、唇をギュッと噛んだ。

「……それを言ったら最後とかないわよね?」
「どういう意味?」
「……私……今もまだあなたに拒絶されるのが怖くて仕方ないの……」

 譲によって与えられる快感と切なさの狭間で、真梨子は泣きそうになる。しかし譲は驚いたように目を見張る。

「もしかして俺があの日の復讐をしようとしてるとか思ってるわけ?」
「だって……!」

 真梨子の胸元に顔を埋めて笑いを堪えていたが、我慢出来ずに声を上げて笑い出す。

「まぁ仕方ないか。真面目な真梨子のことだから、いろいろ考え過ぎちゃったんだろうな。大丈夫だよ。俺は真梨子を離さないって言ったし、そのまま真っ直ぐ受け止めてよ」
「……本当?」
「本当。愛してるよ、世界中の誰より真梨子を愛してる」

 譲の言葉を聞いて、真梨子はようやく笑顔になる。

「離婚したばかりで、こんな感情を抱くのっておかしくない?」
「世の中には一目惚れっていう言葉もあるんだよ。恋に落ちるのに時間なんて関係ない」

 本当に私をその気にさせるのが上手なんだから……。

 でもこの日をずっと夢見てた……まさか現実になるなんて思いもしなかった。私、やっとこの言葉を口にしてもいいのね……。

「うん……私も譲を誰よりも愛してる……」
「よく言えました。じゃあ……まずはシャワーを浴びて、それからいっぱい愛しあおうか」
「……いっぱいはダメ。明日仕事だし、程々にしてくれる?」
「じゃあ濃厚で濃密な時間にしないとね……」
「うん……お願い……」

 まるで今までの時間を埋めるかのように、ねっとりと熱い口づけが繰り返されていく。彼女の体はゆっくりソファに崩れ落ち、その間に一瞬で服を脱がされてしまう。

 真梨子はクスクス笑った。

「シャワーじゃなかったの?」
「うーん……そのつもりだったんだけどな……真梨子が煽るからだよ……」

 譲は溶けてしまいそうな目で真梨子を見つめると、彼女の奥深くへと入っていく。真梨子の体は悦びに震えた。

 あぁ……ようやく心も体も繋がったんだ……。

「愛してるよ……真梨子……」

 苦しそうな表情を浮かべる譲の輪郭を指でなぞり、真梨子は衝動のままキスをする。

 愛があるセックスって、なんて気持ちが良いんだろう……。こんな幸せがあったなんて、今まで知らなかった……。

 譲が動き出すと、真梨子はじわじわと快楽の波に飲まれていった。
< 119 / 144 >

この作品をシェア

pagetop