貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜
 譲は素早い動きで真梨子のストッキングとショーツを取り去る。ニットを捲り上げブラジャーのホックを外すと、胸が露わになった。

 五分という短い時間の中で真梨子絶頂に導くため、譲は指と舌を使って濃密で執拗に攻め立てる。

 真梨子がキスが好きなことを知っているため、何度も何度も舌を絡めながら、指は真梨子の中の敏感の部分を弄り続けていた。

 譲は私の体を知り尽くしている……。そんな人相手に五分も保たないことは目に見えている。

 負けるとわかっていても、本当はそれで良かった。ただ譲に求められる幸せに浸っていたい。この時間が真梨子をとてつもない快楽の奥深くに堕としていく。

 あっという間に真梨子の体は弓形になって果てた。

 譲は熱を帯びた瞳で、満足気に真梨子を見下ろした。

「俺の勝ちだね。それじゃあ……」

 言いかけた譲の首に手をかけ唇を押し付け、譲の足の上に跨った真梨子はとろんとした瞳で彼を見つめる。

「お願いだから……早く譲が欲しいの……」
「……あぁ、くそっ……!」

 真梨子にキスをされながら、ズボンのポケットからコンドームを取り出す。それを見た真梨子が笑った。

「何でポケットに入ってるのよ……」
「だってここで真梨子を抱く気満々だったからね。いつその気になってもいいように準備しておいたんだ」
「……バカ」

 譲はズボンのベルトを外すと、さっとコンドームを装着する。そして腰を浮かせた真梨子の中に入っていく。

「……んっ……譲……愛してる……」
「俺も愛してるよ……」

 真梨子は譲の頭を抱きしめる。言葉だけでは言い表せないぐらい、あなたを愛してやまないの……。深い部分で繋がる悦びに、真梨子は身を震わせた。

* * * *

 服を整え、二人はようやく食事にあり着いた。譲の足の間に座り、彼の胸に寄りかかりながらケーキを食べていた。

 改めて社長室を見渡し、自分とは違う世界の人なのだと実感する。

 もしあの頃に、今の彼の姿を知っていたらどうしたかしら? どう考えても、私は怯んで逃げ出したに違いない。

 真梨子は自分の母親のことを思い出す。真梨子の実家は長く続く料亭で、元芸者の母親は父親に見初められ嫁いできた。

 母は気丈に振る舞ってはいたが、父親の前でだけ泣く姿を何度か目撃した。そのたびに、この家を守る大変さを痛感していた。

 家は兄が継いだが、真梨子が大人になるにつれ、母は彼女の前でも時折愚痴を漏らすようになった。しかし真梨子の結婚の際に縁を切られてしまったため、その後の様子わからなかった。

 もし譲と結婚したらどうなるのだろう……不安が過ぎる。そもそもこんな表舞台に出るような人の妻がバツイチでもいいの?

「さて、早速お願いといこうかな」

 真梨子の心配をよそに、譲は楽しそうに彼女の肩に顎を乗せ、髪に指を絡めていく。

「で、私は何をすればいいの?」

 眉をひそめ、真梨子は不愉快そうに口にする。

「そんなにすごいことではないよ。いつも地元の仲間たちと新年会をやるから、そこに一緒に来て欲しいんだ」
「地元って……」
「真梨子と出会ったクラブに一緒行ってた仲間たち」
「あぁ……なるほど。でも私なんかが行ってもいいの?」
「もちろん。子供の頃からの悪ガキの集いって感じだから、別に気を張らなくて大丈夫だよ。最近は匠は顔を出さないんだよな。とりあえず誘ってみるかな」

 まぁ約束だし仕方ないか。真梨子は渋々頷いた。
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