貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜
その時、真梨子は誰かに眉間を指で押され、驚いて目を開ける。そこには楽しそうに笑う譲が立っていた。
「眉間に深い皺が刻まれてるぞ」
「……あなたね、失礼なこと言わないでくれる?」
「どうせまた品行方正な真梨子ちゃんは、これでいいのかどうか悩んでるんだろ?」
「……!」
「ほら、図星だ。本当にわかりやすいな」
悔しそうに下を向く真梨子の背中を、譲は力いっぱい叩く。
「痛っ! 何するのよ!」
「ほら、行くぞ。俺は今日、友達と映画を観に来たんだから」
「……映画って本気だったんだ?」
「当たり前だろ」
そして購入済みのチケットを真梨子に渡す。記載されていたのは、今人気の恋愛映画だった。
「……譲も恋愛映画を観るのね」
「……っていうか、この間真梨子が観たいって言ってたやつだろ? だから選んだんだけど」
譲の口から思いがけない言葉が飛び出し、真梨子は目を見開く。
「私のため?」
「まぁね」
「案外いい奴じゃない」
「たまにはこういう健全なデートもいいなと思ってさ」
「……さぞかし不健全なデートを繰り返してるんでしょうね」
「また真梨子が妬いてる」
「……帰ろうかしら」
「冗談だって。普通の友達が久しぶりだから、俺もちょっと楽しみなんだ」
「……普通?」
「ほら、そろそろ行くぞ。ポップコーンとコーラはマストだからな」
譲に背中を押されて歩き出す。
この間もはぐらかされた気がする。きっと何か秘密があるに違いない。
だけど彼は私に考える隙を与えようとしない。