貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜
 映画が終わり、二人は同じ施設内のレストランで食事をしていた。

 映画のラストシーンが悲しすぎて涙が止まらなくなった真梨子は、顔を赤く染め、思い出してはハンカチで目頭を押さえる。それを見ながら譲はずっと笑いを堪えていた。

「真梨子って涙脆いんだなぁ。ちょっと意外だった」
「つい感情移入しちゃうのよね。泣かないあなたの方が不思議なんだけど」
「俺は結構冷静に観るかも。どうせ作り物だしって思うと、一つの作品として客観的に受け止めてる」
「冷淡」
「確かに。そういうところもあるかもしれないな」

 譲って一体何者なのかしら……。言葉も動作もスマートだし、すごく落ち着いてる。でも出会った日にVIPルームにいた姿は、チャラ男にしか見えなかった。

 真梨子の視線に気付いた譲はにっこり微笑む。しかしテーブルの下では、彼女の足の間に膝を押し込もうとしていた。真梨子は膝をガッチリと閉じ、侵入を拒み続けていた。

「今夜はどうする?」
「……一応聞くんだ」
「無理にするような野蛮な男じゃないんでね」
「……言ってることとやってることが合ってないんですけど」
「まぁ、本音は今すぐ真梨子にキスして、真梨子の中に入りたいって思ってるからね」

 こんなにはっきり言われると照れ臭い。だけど求められる喜びも感じてしまう。

 これは良くない、良くない……呪文のように頭を駆け巡るのに、あの日の快楽を思い出すと身体が疼き出す。

 真梨子はただ頷いた。
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