貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜
真梨子の実家へ挨拶に行ってから一週間。今日は譲の実家へ行くことになっていた。
想像通りの立派な住居に、思わず真梨子は腰が引けてしまう。ただ出迎えてくれた譲の母親が優しそうな人だったことが救いだった。
案内されたリビングでは、譲の父親がソファに座って待っていた。その前のソファに座ると、現会長である譲の父親が真梨子をじっと見ていたため、真梨子は緊張のあまり凍りつく。
二人の様子を見ていた譲と母親は思わず吹き出し、それから真梨子の背中を軽く叩いて笑顔を向けた。
「父さん、真梨子が緊張するからやめてくれるかな」
「そうよ。ガチガチになっちゃってるじゃない」
二人に言われてようやく気付いたようで、父親は慌てて笑顔になった。
「いやいや申し訳ない。そんなつもりはなかったんだが……」
真梨子は首を横に振ってから、パッと頭を下げる。
「あ、あの……初めまして。山中真梨子と申します。よろしくお願いします」
「あぁ、譲から聞いてるよ。山中屋さんの娘さんなんだってね。驚いたよ」
「そうそう。私たち、昔からよく利用させてもらってたのよ。だからご縁を感じずにはいられなくて」
「私も驚きました。譲さんとそのような繋がりがあるとは思わなかったので……」
会話が弾んできたところで、譲が口火を切る。
「真梨子のご両親にはきちんと承諾を得てきたよ。この間話した通り、五月の挙式もする予定でいるから」
すると譲の母親が戸惑ったように真梨子に話しかける。
「この子って、こうと決めたらやり通すタイプなのよ。真梨子さんの意志もちゃんと入ってる? 譲が勝手に進めているのなら、今からガツンと言うわよ」
「そんな……! あの……むしろ私でいいのでしょうか……。譲さんからお聞きになっているかもしれませんが、私は……その……離婚したばかりの身なので……」
真梨子は思わず下を向いた。自分で話すのは少し心苦しかった。だが真梨子の想いに反し、父親はにっこり微笑んだ。
「譲の前の結婚のことは聞いているかな?」
「あの……少しだけなら……」
「私たちは譲のためと思って結婚話を進めたんだが、どうも自分たちの意思ばかりが大きくなってしまってね。本人たちの気持ちを蔑ろにしてしまった。だから譲には負い目があるんだよ。もし譲が自分から結婚したい人を連れてきたら、全力で応援するつもりでいたしね」
「もう結婚しないと思っていた譲が、『好きだった人が離婚したから結婚したい』と言い出した時はおどろいたわよね。まさか略奪したんじゃないでしょうね⁈ って心配したけど、譲から『そんなことするはずないだろう』と怒られちゃったわ」
「そりゃそうだろ。もっと自分の息子を信頼してほしいね」
「わかっているよ。譲には本当に申し訳ないことをした。だから譲自身が決めた結婚を祝福したいんだ。私はね、むしろバツイチ同士でいいんじゃないかと思っているよ。お互い一度失敗してるからこそ嫌なことはしないと思うし、上手くいくんじゃないかな」
「あ、ありがとうございます……! 精一杯頑張らせていただきます!」
その時、譲がまたあの封筒を取り出すと、父親の前に婚姻届を差し出す。
「お前……本当に用意がいいな」
「まぁね。あぁそうだ。これからドレスを見に行くから、早く書いてくれるかな?」
「はいはい、お前は昔からせっかちだから……」
しかしその横で、真梨子は目が点になる。ドレス? そんなこと初耳だけど。
「さっきキャンセルが出たって電話があったんだ。楽しみだなぁ、真梨子のドレス姿」
やけに浮き足立つ譲を見ながら、真梨子は一日が長く感じ、ついため息が漏れてしまった。
想像通りの立派な住居に、思わず真梨子は腰が引けてしまう。ただ出迎えてくれた譲の母親が優しそうな人だったことが救いだった。
案内されたリビングでは、譲の父親がソファに座って待っていた。その前のソファに座ると、現会長である譲の父親が真梨子をじっと見ていたため、真梨子は緊張のあまり凍りつく。
二人の様子を見ていた譲と母親は思わず吹き出し、それから真梨子の背中を軽く叩いて笑顔を向けた。
「父さん、真梨子が緊張するからやめてくれるかな」
「そうよ。ガチガチになっちゃってるじゃない」
二人に言われてようやく気付いたようで、父親は慌てて笑顔になった。
「いやいや申し訳ない。そんなつもりはなかったんだが……」
真梨子は首を横に振ってから、パッと頭を下げる。
「あ、あの……初めまして。山中真梨子と申します。よろしくお願いします」
「あぁ、譲から聞いてるよ。山中屋さんの娘さんなんだってね。驚いたよ」
「そうそう。私たち、昔からよく利用させてもらってたのよ。だからご縁を感じずにはいられなくて」
「私も驚きました。譲さんとそのような繋がりがあるとは思わなかったので……」
会話が弾んできたところで、譲が口火を切る。
「真梨子のご両親にはきちんと承諾を得てきたよ。この間話した通り、五月の挙式もする予定でいるから」
すると譲の母親が戸惑ったように真梨子に話しかける。
「この子って、こうと決めたらやり通すタイプなのよ。真梨子さんの意志もちゃんと入ってる? 譲が勝手に進めているのなら、今からガツンと言うわよ」
「そんな……! あの……むしろ私でいいのでしょうか……。譲さんからお聞きになっているかもしれませんが、私は……その……離婚したばかりの身なので……」
真梨子は思わず下を向いた。自分で話すのは少し心苦しかった。だが真梨子の想いに反し、父親はにっこり微笑んだ。
「譲の前の結婚のことは聞いているかな?」
「あの……少しだけなら……」
「私たちは譲のためと思って結婚話を進めたんだが、どうも自分たちの意思ばかりが大きくなってしまってね。本人たちの気持ちを蔑ろにしてしまった。だから譲には負い目があるんだよ。もし譲が自分から結婚したい人を連れてきたら、全力で応援するつもりでいたしね」
「もう結婚しないと思っていた譲が、『好きだった人が離婚したから結婚したい』と言い出した時はおどろいたわよね。まさか略奪したんじゃないでしょうね⁈ って心配したけど、譲から『そんなことするはずないだろう』と怒られちゃったわ」
「そりゃそうだろ。もっと自分の息子を信頼してほしいね」
「わかっているよ。譲には本当に申し訳ないことをした。だから譲自身が決めた結婚を祝福したいんだ。私はね、むしろバツイチ同士でいいんじゃないかと思っているよ。お互い一度失敗してるからこそ嫌なことはしないと思うし、上手くいくんじゃないかな」
「あ、ありがとうございます……! 精一杯頑張らせていただきます!」
その時、譲がまたあの封筒を取り出すと、父親の前に婚姻届を差し出す。
「お前……本当に用意がいいな」
「まぁね。あぁそうだ。これからドレスを見に行くから、早く書いてくれるかな?」
「はいはい、お前は昔からせっかちだから……」
しかしその横で、真梨子は目が点になる。ドレス? そんなこと初耳だけど。
「さっきキャンセルが出たって電話があったんだ。楽しみだなぁ、真梨子のドレス姿」
やけに浮き足立つ譲を見ながら、真梨子は一日が長く感じ、ついため息が漏れてしまった。