貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜
入籍から一週間後、二人は親しい人だけを招いて結婚式を開いた。
チャペルの入り口に立った真梨子は、隣にいる母にベールダウンをしてもらう。これには『愛する娘に災いが起きませんように』という意味があるらしく、父親とバージンロードを歩く前に、母との時間を持ちたいという真梨子の願いでもあった。
「きれいよ、真梨子……。今度こそ幸せにね」
母の言葉に笑顔で応える。そして父と母を交互に見つめた。
「今まで心配かけてごめんなさい。いつも見守ってくれてありがとう……」
そして父の腕に手をかけると、一緒にバージンロードを歩き出す。やっと父の手から、愛する人の元へ向かうことが出来る。これは真梨子から両親への感謝の気持ちの表れでもあった。
バージンロードの先では、譲がにこやかに二人の到着を待ち侘びていた。
父は真梨子を譲へ引き渡すと頭を下げ、譲も同じように頭を下げる。そして真梨子の方へ向き直ると、そっと彼女の手を引いた。
「緊張してる?」
「……してる」
譲が小声で尋ねてきたので、真梨子も小声で返事をした。
牧師様の言葉に合わせて誓いを唱え、指輪を交換する。それから譲の手により、顔にかかっていたベールが上げられキスを交わした。
唇が離れると、二人は微笑み合う。ここまでは来るのに、長い時間がかかってしまった。それでもようやく手にした幸せは、何にも代え難いものだった。
二人の幸せを祝福するように、チャペルに参列者の拍手が響き渡る。
真梨子は自然と笑顔が溢れていく。両親に感謝の気持ちを伝え、友人たちと楽しい時間を分かち合う。その当たり前がこんなにも幸せだなんて知らなかった。
親しい人に祝福してもらえ、その人たちの笑顔を見ることが出来たことで、心がこんなにも満たされることを知った。
* * * *
集合写真を撮るために皆で集まった時だった。真梨子の後ろに立った二葉が、ニヤニヤしながら真梨子を見つめていたのだ。
「真梨子さんからお兄さんの香りがする……」
真梨子は思わずドキッとした。
「そりゃあ一緒に寝てるんだもの。香りも移るわよ」
「うふふ……仲が良いのは何よりです」
ここのところ、毎日のように譲と愛を交わしている。それが二葉にバレているようで、真梨子は少し気まずくなる。
「……私ね、二葉ちゃんのおかげで自分の幸せを考え直すことが出来たの。だからすごく感謝してるわ」
「そんなことないです! 私は言いたいことを言っただけ。最終的に真梨子さんを救ったのはお兄さんですから」
真梨子は先ほどから隣の席で、二人の会話を微笑みながら見守っていた譲の手を握る。
「赤い糸って本当にあるのかしら……」
「さぁ、どうだろうね」
「私ね……私の中の一番は、きっとずっと揺るがなかったの。だからあなたと繋がっていた糸が切れていなくて良かったって本当に心から思う……」
すると譲は真梨子の小指に自分の小指を絡めていく。
「糸は見えないけど、小指の約束は出来るよ。温かくて、笑顔に溢れる家庭を築いていこう」
譲の言葉は真梨子の心に染み渡る。
「……えぇ、私たちらしい家庭を作っていきましょう」
求める幸せは人によって違うもの。それでもこの人となら同じ方向を見て歩ける気がするの。
「好きな人の移り香なんて、素敵ですね」
二葉がうっとりしながら呟くと、譲は真梨子の手を取りキスをする。
「それはいいね。これから一生、俺の香りが消えないくらい真梨子のそばにいて、死が二人を分つまで愛すると誓うよ」
あんなに遠く恋しかったあなたの香りが、今は私の体に残るくらい近くにある。恋しい人がそばにいることが、こんなにも私を満たしてくれる。
「真梨子さん、今幸せですか?」
「えぇ、とても幸せよ」
二葉の問いに、真梨子は笑顔で答える。
私の幸せは、ずっとここにあったような気がするの。
チャペルの入り口に立った真梨子は、隣にいる母にベールダウンをしてもらう。これには『愛する娘に災いが起きませんように』という意味があるらしく、父親とバージンロードを歩く前に、母との時間を持ちたいという真梨子の願いでもあった。
「きれいよ、真梨子……。今度こそ幸せにね」
母の言葉に笑顔で応える。そして父と母を交互に見つめた。
「今まで心配かけてごめんなさい。いつも見守ってくれてありがとう……」
そして父の腕に手をかけると、一緒にバージンロードを歩き出す。やっと父の手から、愛する人の元へ向かうことが出来る。これは真梨子から両親への感謝の気持ちの表れでもあった。
バージンロードの先では、譲がにこやかに二人の到着を待ち侘びていた。
父は真梨子を譲へ引き渡すと頭を下げ、譲も同じように頭を下げる。そして真梨子の方へ向き直ると、そっと彼女の手を引いた。
「緊張してる?」
「……してる」
譲が小声で尋ねてきたので、真梨子も小声で返事をした。
牧師様の言葉に合わせて誓いを唱え、指輪を交換する。それから譲の手により、顔にかかっていたベールが上げられキスを交わした。
唇が離れると、二人は微笑み合う。ここまでは来るのに、長い時間がかかってしまった。それでもようやく手にした幸せは、何にも代え難いものだった。
二人の幸せを祝福するように、チャペルに参列者の拍手が響き渡る。
真梨子は自然と笑顔が溢れていく。両親に感謝の気持ちを伝え、友人たちと楽しい時間を分かち合う。その当たり前がこんなにも幸せだなんて知らなかった。
親しい人に祝福してもらえ、その人たちの笑顔を見ることが出来たことで、心がこんなにも満たされることを知った。
* * * *
集合写真を撮るために皆で集まった時だった。真梨子の後ろに立った二葉が、ニヤニヤしながら真梨子を見つめていたのだ。
「真梨子さんからお兄さんの香りがする……」
真梨子は思わずドキッとした。
「そりゃあ一緒に寝てるんだもの。香りも移るわよ」
「うふふ……仲が良いのは何よりです」
ここのところ、毎日のように譲と愛を交わしている。それが二葉にバレているようで、真梨子は少し気まずくなる。
「……私ね、二葉ちゃんのおかげで自分の幸せを考え直すことが出来たの。だからすごく感謝してるわ」
「そんなことないです! 私は言いたいことを言っただけ。最終的に真梨子さんを救ったのはお兄さんですから」
真梨子は先ほどから隣の席で、二人の会話を微笑みながら見守っていた譲の手を握る。
「赤い糸って本当にあるのかしら……」
「さぁ、どうだろうね」
「私ね……私の中の一番は、きっとずっと揺るがなかったの。だからあなたと繋がっていた糸が切れていなくて良かったって本当に心から思う……」
すると譲は真梨子の小指に自分の小指を絡めていく。
「糸は見えないけど、小指の約束は出来るよ。温かくて、笑顔に溢れる家庭を築いていこう」
譲の言葉は真梨子の心に染み渡る。
「……えぇ、私たちらしい家庭を作っていきましょう」
求める幸せは人によって違うもの。それでもこの人となら同じ方向を見て歩ける気がするの。
「好きな人の移り香なんて、素敵ですね」
二葉がうっとりしながら呟くと、譲は真梨子の手を取りキスをする。
「それはいいね。これから一生、俺の香りが消えないくらい真梨子のそばにいて、死が二人を分つまで愛すると誓うよ」
あんなに遠く恋しかったあなたの香りが、今は私の体に残るくらい近くにある。恋しい人がそばにいることが、こんなにも私を満たしてくれる。
「真梨子さん、今幸せですか?」
「えぇ、とても幸せよ」
二葉の問いに、真梨子は笑顔で答える。
私の幸せは、ずっとここにあったような気がするの。