貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜
 あの日から半年。譲と真梨子は頻繁に会っては情事を重ねた。会う時間が夜のため、彼の言う"友達"とはかけ離れていたが、それでも譲と体を重ね、彼の優しさを感じる間は満たされていた。

 真梨子は譲との関係を友人には黙っていたが、茜だけは時折早く帰ろうとする真梨子に疑惑の目を向けていた。

「ねぇ真梨子さ、男でもいるの?」
「えっ……な、なんで?」

 昼食の最中に茜が突然聞いてきたものだから、真梨子は驚いてむせてしまう。茜はそれを肯定と受け取り、納得したように頷く。

「あぁ、やっぱりいるんだ。付き合ってどれくらい?」
「……付き合ってない」
「あれっ、そうなの? じゃあ独り身?」

 何て言えばいいのかわからず、真梨子は口を閉ざした。その姿を見て、茜は眉をひそめた。

「もしかして、なんかおかしなことになってる?」
「……友達が出来たの。男友達」

 口籠る真梨子を見て、茜ははっとした。

「……まさか……セフレとかじゃないよね?」

 真梨子が頷くと、茜は頭を抱えて宙を見上げた。

「それは良くないよ、っていうか真梨子らしくない」
「わかってるって……」
「なんでそうなったわけ?」
「……茜とあのクラブに行った日」
「あぁ、あのはぐれた日?」
「そう。あの日に声をかけられて……関係を持ったの。そうしたら、セフレにならないかって提案された」
「それで了承したわけ?」

 真梨子は頷く。あの日のことは自分でも不思議に思う。未だにあの提案を受け入れた理由がわからなかった。

「彼が言うには、範囲の広い友達なんだって」
「それって、(てい)のいい誘い文句じゃない。大丈夫なの? ちゃんと避妊とかしてる? 写真とか撮られてない?」
「あはは。それは大丈夫だと思う。その辺は結構ちゃんとしてるの。これは私の憶測だけど、なんかお金持ちの坊ちゃんって感じがする」
「……そうなの?」
「わからないけど、なんか仕草とかちょっと気品がある時があってね。会う時のホテル代とか全部出してくれるし」
「ふーん……ところで、真梨子は変な感情を抱いたりしてないよね?」
「変なって?」

 茜はペットボトルのお茶を飲みながら、真梨子の目を見つめる。

「好きになったらダメってこと。所詮セフレ。気持ちなんかないんだから」

 胸がチクンと痛む。それは真梨子もずっと前から自分に言い聞かせてきた。だからもちろんわかってる。しかし誰かにその事実を伝えられると、やはり悲しくなった。

 好きになってはいけない人。割り切って関係を続けないといけない。

 でもそう思えば思うほど、優しさが向けられるたびに、ここに愛が存在すればいいのにと思ってしまう自分がいた。

 そう……私は譲に惹かれ始めていたのだ。
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