貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜
* * * *
結婚してから晃の仕事が更に忙しくなったため、結婚式は挙げなかった。写真を撮っただけのウエディングドレス。笑ってはいたけど、内心は複雑だった。
本当は昔から結婚式に憧れていたなんて言えなかった。言えば彼が不機嫌になるのは目に見えてる。真梨子は我慢するしかなかった。
ある時、真梨子は珍しく持ち帰りの仕事がなかったため、バラエティー番組を見ながらボーッと晃の帰りを待っていた。
ドアの開く音がして玄関に晃を出迎えに行く。
「おかえりなさい。夕飯はどうする?」
すると晃は疲れたような表情で、
「すまない。もう食べたんだ」
と言って部屋に入っていく。
真梨子は冷蔵庫の中にあるハンバーグを思い出し、悲しくなった。また食べてもらえないのね。仕方ない、明日のお弁当に入れよう。
彼の後について部屋に戻ると、晃は何も言わずにテレビを消した。
「疲れてる時にこういう雑音を聞きたくないんだ。悪いけど、俺がいる時は馬鹿みたいなくだらない番組じゃなく、せめて報道番組とかにしてくれないか?」
晃の苛立ちが伝わり、真梨子は肩を落とす。余計なケンカをするくらいなら引き下がった方が良い。
「わかったわ。あなたがいる時はテレビは見ない」
真梨子が言うと、晃は彼女を抱きしめる。その瞬間、心がポッと温かくなる。
「ありがとう。そう言ってくれて嬉しいよ」
そしてそのまま浴室に行き、シャワーを浴びると、寝室に入ってしまった。
真梨子は部屋の中を見渡す。また一人きり。静かな空気が流れていた。
この家の中には見せかけの自由しかない。本当の私の自由はどこにあるんだろう。
よく考えれば晃との結婚生活は、最初から少し様子がおかしかった。
それに気付いていたのに、新婚生活が嬉しくて見ないフリをしていたのかもしれない。