貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜

* * * *

 服を着てから、真梨子はリビングではなく玄関へ向かう。そして下駄箱を開けると、上段に置いてあったハイヒールの箱を取り出した。

 箱を開けると、中には若い頃に履いていた赤いハイヒールの靴と、その横に一本の香水瓶が入っていた。

 たまたま見つけた、譲がつけていた香水。表記にはユニセックスと書かれていたし、私が持っていてもおかしくはない。

 そっと蓋をあけて、少しだけ首筋に吹きかける。すると不思議とあの頃の気持ちが蘇り、気持ちが落ち着いていく。

『真梨子……』

 そう呼ぶ彼の声が聞こえるかのよう。自分の体を抱きしめれば、譲に抱かれた時の幸せな気持ちに浸れる。

 香水は人によって、時間と共に香りが変わるらしい。これはトップノート。この先の譲の香りはどうだったかしら……。考えるだけで気持ちが軽くなる。

 夫じゃない人香りで安心するなんて、私は最低ね……。

 そしてこの日以降、晃と真梨子が体を重ねることはなくなった。
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