貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜
 しかし時間は残酷にも過ぎていく。

 真梨子の周りの友人達が少しずつ結婚し、妊娠を公表するようになってきたのだ。

 一番に結婚したのに、置いていかれるような焦燥感を抱かずにはいられなかった。

 夫婦での生活も、子どもの話をしなければ穏やかに過ぎていく。二人で旅行にも行ったし、家でもお互いの時間を尊重しながら自由に過ごす。晃はそんな時間が好きなようだった。

 でも真梨子の本音はそうではなかった。妊娠したという友人を羨ましいと思いながら、妬ましくもあった。

 悔しい……私だって本当は……そう思いながら、グッと言葉を飲み込む。

 だから真梨子は、もう一度晃と向き合う決意をしたのだ。

 二人でゆっくり過ごしていた時、真梨子は口を開いた。

「私やっぱり子どもが欲しい」

 すると晃は困ったように下を向いた。

「真梨子の気持ちはわかる。でも……もう二年もしてないんだ。今更無理だよ」
「じゃあ体外授精は? 一緒に病院に来てくれるだけでいいから……」
「仕事が忙しいんだ。そんな時間とれないよ」

 晃の言葉に、真梨子は苛立ちを覚えた。

 忙しい? じゃあこうして本を読んでる時間は何なの? この時間を私のために割こうとは思わないの?
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