貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜

 そして、真梨子の中である疑惑が思い浮かぶ。

「あなた……まさか他に女がいるの? だから私とは出来ないのね……」
「そんなわけないじゃないか! 本当に仕事が忙しいだけだ!」

 すると晃は真梨子の手を取り微笑みかける。

「なぁ真梨子。夫婦二人だっていいじゃないか。好きな時に好きなことが出来る。ちょっとした贅沢だと思わないか? 子どもがいたら、こんな風にゆっくり過ごすことも出来なくなる。俺は真梨子と穏やかにゆっくり生活出来たら、それだけで幸せだよ」

 それは全てあなたの希望でしょ? あなたの考えでしょ? 私がそう思っていないのはわかっているくせに、いつもそうやって正論っぽく並べて、私を丸め込もうとするのね。

 真梨子は笑って頷いた。

「そうね、わかったわ」
「わかってくれて良かったよ。愛してるよ、真梨子」

 嘘つき。

 あなたに愛なんてない。あなたが必要としているのは、従順に従う"真梨子"。そして世間に"充実した生活を送る夫"としての姿をみせたいだけ。

 こんな結婚生活、意味がある?

 意味なんかない。じゃあどうして続けるの?

 そうね、私も世間体が大事。離婚した先生なんて、陰で何を言われるかわからない。

 真梨子はぐるぐると止まない心の声と戦いながら、次第に自分が崩れていくのを感じていた。

 
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