貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜
 匠との別れから六年、真梨子は仕事だけが生き甲斐になっていた。頑張った分、全てではなくても返ってくるものも大きい。

 私生活は諦めた。何を言っても、何をしても、何も変わらない。意味のないことはやめよう。希望なんて持ったって無駄。そう思うと気が楽になった。

 そんな時だった。学校に卒業生数名が遊び来たのだ。その中に匠が学生時代に仲良くしていた友人もいた。

 真梨子はさりげなく情報を引き出そうとした。

「そういえば副島くんとは会ったりしてるの?」
「あぁ、あいつ、仕事でずっとイギリスに行ってたんですけど、ようやく日本に戻ってきて。この前一緒に飲んだけど元気でしたよ」
「イギリス?」
「しかも最近、年下の可愛い彼女が出来たって、めちゃくちゃのろけてたし」
「そうそう! 雲井(くもい)二葉(ふたば)ちゃん! あんな副島見たことないってくらい、相当骨抜きにされちゃってますよ」
「写真見せてもらったけど、確かに可愛かったよな〜」

 イギリス? 彼女? 真梨子の知らない情報がいくつも現れ、頭と心が追いつかない。

「ねぇ……誰か副島くんの番号を教えてもらえない? 副島くんがやっていた文化祭の企画のことで、ちょっと聞きたいことがあるのよ」
「それなら、俺から学校に電話するように伝えましょうか?」

 それだと彼は私に連絡なんてして来ない。わかりきった現実は避けたい。

「学校の時間と、会社の勤務時間って違うじゃない? たぶん連絡しにくいと思うの。だから都合の良い時間に連絡をとれたらと思って」
「まぁ確かにそうですねぇ。じゃあ副島の番号を教えておきますね」
「ありがとう」

 匠の番号が書かれたメモを眺めながら、真梨子は思わずほくそ笑んだ。

 私を裏切ったくせに、新しい彼女が出来たですって? そんなこと許さない。
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