貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜
食器を片付けると、残ったポトフを冷蔵庫にしまう。
それからスマホと匠の番号が書かれた紙を手に取り、ゆっくりとソファに座り込む。天井を仰ぎ、目を閉じた。
私は何がしたいんだろう……。匠とまた繋がろうとしているの? 匠に電話をかけるということは、再び晃を裏切る行為になる。二人で仲良く過ごしていこうって話し合ったじゃない。
でもそう思うのは表向きの自分。心の奥底では私の気持ちを踏み躙った晃を許せないでいた。
真梨子はスマホに匠の番号を打ち始める。そして一瞬躊躇ってから画面をタップした。
呼び出し音が鳴り始めると、緊張のため心臓の音が早くなり、息苦しくなる。
しかし彼は出なかった。
真梨子はどこか安心したように電話を切る。
馬鹿みたい。出なくてホッとするなんておかしな話。
何気なく画面を指でスクロールしていき、一人の名前の上でぴたっと止まる。
『譲』
どれだけ未練がましいの……。彼に連絡は出来ない。なのにこの番号を消すことが出来ない。
誰よりも話したい人……。今も忘れられない人……。
あぁ、そうか。譲の代わりとして、私はきっと匠に固執している。手に入らない人を追うより、手に入りそうな人に手を伸ばそうとしているんだ。
最低な女ね、私……。それでも自分の苦しみを和らげる方法が、これしか見つからないの。
自分のために誰かを傷付けても、仕方ないとしか思えなかった。