貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜
 真梨子は期末試験のテスト問題を作りながら、熱っぽさと寒気を感じ、終業後に早めに帰宅することにした。

 何も出来ず、そのままパジャマに着替えるとベッドに潜り込む。それでも寒くて仕方がなかった。

 しかし今日に限って晃が帰ってくる日だと思い出し、枕元に置いてあるスマホを手にすると、晃にメッセージを送る。

『具合が悪くて夕飯を作れないの。自分でどうにかしてくれる?』

 返事はすぐに来た。

『食べて帰るから気にしなくていいよ。ゆっくり休んでて』

 そのメッセージを見た時に、真梨子はただ愕然とした。具合が悪い真梨子を心配する言葉が一文字も入っていなかったのだ。しかも、真梨子の食事には触れず自分のことだけ。

 確かに具合が悪いと言ったし、そういう時は食べられない場合の方が多いかもしれない。だとしても、一言尋ねることくらい出来るはず。

 あぁ、でもそうね……今までもそうだった。言い方や言葉が優しいから、この人は優しい人だと信じ込まされていたの。

 普段だったらそこまで深く考えなかったかもしれない。だが辛くて気持ちが落ち込んでいるからこそ気付いてしまった。

 一緒にいるのに、思いやりというものを感じられない。付き合っていた頃は私のためにいろいろなことをしてくれた。優しい人だと思った。だけどあの人の優しさは私に向けられたものではなくて、自己満足によるもの。優しい自分に酔ってるだけ……。
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