貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜
* * * *
仕事が終わってから、真梨子は何故か匠の職場の前にいた。
あの子に真実をぶちまけてやる。匠が愛していたのは私だって教えてやらないと。二人だけが幸せになるなんて許さない。
その時、ビルの中から笑顔で歩いてくる女性に気付く。スマホに映し出された雲井二葉の写真と見比べ確信する。
あの子だ……真梨子は居ても立っても居られなくなり突然後ろから二葉の手を掴んだ。
驚いて振り返った二葉は、写真と同じ長い髪だったが、実物はもっと小柄な女性だった。
「あの、ちょっといいかしら」
優しく話しかけるはずが、つい二葉の手を強く握ってしまう。二葉は突然のことに驚いて警戒しているように見える。
「何か御用でしょうか……?」
すると真梨子は満面の笑みでにっこり微笑んだ。二葉が怖がっているのがわかる。
「あなたとお話がしたいの。副島匠について……」
匠の名前を出されて二葉はハッとすると、不審げな瞳で真梨子をみた。
「あの……どちら様でしょうか?」
「私は山内真梨子。彼の高校時代の担任だったの」
二葉に緊張感が走るのがわかった。その様子に真梨子は違和感を覚える。まるで私を知っているかのような反応……どういうこと?
とはいえ、ここで止めるつもりはなかった。
「少しだけ付き合ってもらえるかしら?」
「あの……何故私のことを?」
「……そのことも含めてお話したいのだけど」
真梨子の手は二葉を掴んだまま離そうとしない。逃がさない……その思いが強く読み取れる。
しかし二葉はしばらく悩んだ後、意を決したように顔を上げる。
「わかりました」
真梨子に向ける強い眼差しに、一瞬怯みそうになった。しかし真梨子も負けてはいられなかった。
「あら、話のわかるお嬢さんで安心したわ」
不敵な笑みを浮かべると、二葉を牽制する。しかし二葉も負けないように心を奮い立たせる。
「いえ……私は匠さんの彼女ですから」
真梨子の顔が引きつる。
「……じゃあ行きましょう」
二葉は緊張しているようだが、真梨子の後について歩き出した。