貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜
「……VIP席で飲む奴に、ロクな男はいないわ。つまりお断り」
「それは残念」
「それに本命がいるような男に興味はないの」
「おかしいな。俺は独り身なんだけどね」
「さっき膝に女を乗せてたじゃない。そういう節操無しには興味ない」
「あれは勝手に乗ってきただけだよ。それにしてもよく見てたな」
男はニヤッと笑うと、更に体を密着させる。足の間に膝を差し込まれ、真梨子は身動きが取れなくなる。
彼の香りにクラクラするのに、耳元で囁かれては体が疼き出す。
「悪い男レーダーがしっかり反応したもの。それに勝手にという割には、彼女のお尻にしっかり手を回してたじゃない」
「へぇ……その悪い男相手に、やけに心拍数が上がっているみたいだけど?」
「それは……!」
気付かれていたことが急に恥ずかしくなる。尚のこと、この男から離れなければ。危険信号を感じ始めていた。
「なぁ、これから二人で飲まないか?」
「嫌よ。あなたみたいな得体の知れない人となんか飲まない。帰る」
男の体を両手で押して、必死に抵抗する。しかし男の力は強くてびくともしない。
「……わかった。ちょっと待ってろ」
男は廊下の奥のVIP席に合図を送る。すると中からひょろっとした男が一人、こちらに向かって歩いてくる。
「俺はもう帰るから。あいつらに言っておいて」
「了解。じゃあまた明日な」
そのやりとりを見ていた真梨子は、逃げるタイミングを失ってしまった。
男はニヤッと笑うと、真梨子の腰に腕を回す。
「外に出よう。いい店を知ってるんだ」
そして真梨子は半ば強引に店から連れ出されてしまった。