貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜
 カップをソーサーの上に戻しながら、真梨子は口を開く。

「でもそこまで話しているんでしょ。それなら匠が私に別れを切り出したのは、もしかしたらあなたのせいかもしれないわね」

 そう言った後、真梨子は二葉を睨みつける。やっぱりこの女が原因だったのよ。私から匠を横取りした(ずる)い女。

「あの子に何を言ったの? どんな風にそそのかしたの?」
「そ、そんなことしてません! どうしてそういう考えになるんですか⁈ あなたには夫がいて、それなのに教え子だった彼に関係を迫ったんですよね……。匠さんは高校時代、あなたのことを本当に好きだったんです! そんな優しい彼が……あなたを断れるはずがない……!」

 この女は何を言っているの? 私が迫った? 最初に好きだと言ったのは匠なのよ。

「ちょっと待ちなさい。それだとまるで私が強要したみたいじゃない」
「……違うんですか?」
「当たり前でしょ。匠は私が誘ったら喜んでいたわ。あの子だって本心は私を自分のものにしたかったのよ」

 真梨子がはっきりと言い切ると、二葉は何も言い返せず下を向いた。

 この子はまだ匠の気持ちに自信が持ててないのね。そりゃそうよ。匠は私を忘れられるはずがないんだから。

 手を震わせる二葉を見て、真梨子は思わずほくそ笑んだ。あんたなんか、若くて可愛いだけ。見せかけの恋心に浮かれているだけの小娘に、私は負けない。

「あなたたちが六年前に何を話したかは知らないけど、私は夫と離婚する気はないし、手に入らない私の代わりにあなたに手を出したんじゃないかしら? かわいそうなお嬢さん」

 真梨子は二葉を見下すようにソファの背もたれに寄りかかる。
< 41 / 144 >

この作品をシェア

pagetop