貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜
匠は驚いたように目を見張り、ため息をつきながら肩を落とした。
「先生にどう見えたかはわからない。でも俺はあの時にはもう気持ちはなくなってたんだ。でもずっと言えなかった。だってあなたはいつも俺を脅すようなことばかり言うから……」
私が脅した? 何のことなのかわからない。
匠が愛おしそうに彼女の頭を撫でる仕草にイライラが募る。私がどんなに辛いって言ったって、そんなことしなかったじゃない。
「でもそんな時に二葉と出会って……他愛のないことが楽しくて、一緒にいると無理しなくて……この時間がずっと続けばいいと思ったんだ。ずっと一緒にいたいなんて……先生には感じたことのない感情を、二葉は俺に教えてくれた……」
二人が抱き合う様子を見ながら、真梨子は戸惑った。事態が想定外に進み始めていることに、動揺を隠せない。
やめてやめてやめて! これは私が見ようとしなかった現実。もう逃げることは出来ないと悟る。
「だ、だって……あなただって私といたいって……愛してるって言ったじゃない……!」
「言わされたんだ、あなたに。俺の言葉は全てあなたの誘導によるもの。本心なんて言えなかった」
匠はテーブルに置かれた真梨子のスマホを見たことに気付き、慌てて取ろうとしたが遅かった。匠はパッと奪い取ると、真梨子を冷静な目で見据える。
「あなたが脅しの材料にした写真、確かに俺へのダメージも大きい。でもあなたの方がご主人にバレたらまずいんじゃないですか?」
「なっ……!」
匠の言葉を聞いた真梨子は、頭に血が上り怒りを覚える。だが自分が晃を裏切っていることを思い出し、悲しくなった。でもそもそもの原因は晃よ。だから私は感情の矛先を見失ってしまった。