貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜
救われる
 あの日から気力が失われたような心持ちだった。

 あの子のせいよ……。あの子の言葉が正論過ぎて、私は反論出来なかった。

 たとえ晃との関係が見せかけだとしても、それを選んで今まで生活してきた。それなのに自分の欲望を外の生活に見出そうとして、晃を裏切ったのは事実。

これは私が今まで嫌ってきた不貞行為。それに気付いた瞬間、罪悪感に襲われ、何もしたくないし、考えたくなかった。

 この生活が嫌なら別れれば良いのに、でも優しいあの人を知っているからと踏み出せない。しかもこの先、再婚の可能性があるかわからないのに、突然一人になることへの恐怖も感じる。

 仕事だけは続けていて良かった。何があっても私には逃げ場があると思える。

 そんな時だった。突然知らない番号から着信が入る。いつもだったら無視をするのに、何故かこの日は出てしまった。

「もしもし」
『……突然すみません。先日副島匠さんのことでお話しさせていただいた者です』

 真梨子ははっとして、警戒心を強める。

「……何か御用?」
『……あなたともう一度話がしたいと思って連絡しました』
「話すことなんかないわ。迷惑よ」
『あのっ! 迷惑なのは重々承知しています! ただ……匠さんのことではなくて、あなたと話がしたいんです……』
「意味がわからないんだけど」
『お、女同士の話がしたいんです。い、いわゆる女子トークです!』
「……なんで私なの? 友達とでもしたら?」
『だ、だから! あなたとしたいんです!』

 意味がわからなかった。でも女子トークという言葉に心が動かされる。そんなこと、もう何年もしていなかった。

「……わかったわ。三日後、この間のホテルのラウンジでいいかしら?」
『もちろんです! ありがとうございます!』

 電話を切った後、真梨子は複雑な気持ちになる。二葉の真意がわからない上、今は気持ちを強く持つことが出来なかった。

 でも会うことを了承したのは私。とりあえず行くしかない。
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