貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜
すると二葉が意を決したように、真梨子の目を見た。
「あの……今は夫婦仲は修復されたんですか?」
「……あぁ、あなたが知りたいのはそういうことなのね。匠を取られるんじゃないかって心配してるわけ?」
「いえ、心配はしてません。彼が大丈夫って言ってくれたので。ただ……匠さんに連絡をしたということは、その……まだ……」
真梨子は深いため息をついた。
「……こういうのって、結婚してない人に話してもわからないと思うのよね。だから話す必要性を感じない」
「……そう言われると思ってました。こんな年下の、しかも独身の女に話してもって……ただ、あの時のあなたの表情が気になって……。この間の電話であなたは私に『友達と話せば』って言いましたよね」
「ええ、年の近い友達と話せば共感してもらえるでしょう?」
「……あなたにはそういう話が出来る友人はいるんですか?」
真梨子の動きが止まる。図星だった。
「姉が言ってました。境遇が変わると、話す内容が変わってくるって。いくら仲が良かった友人でも、結婚の有無、子どもの有無で疎遠になる人もいるって……」
「……だから何?」
「私に話しませんか? 役不足かもしれない。あなたの望む返事を言えないかもしれない。でも私はまだ何も知らないから、あなたの味方になれます」
「何を言って……」
「女って、喋って同調することで発散したりするじゃないですか。私も友達と話すとスッキリします。でも環境は変わりますよね。それと共に人も、その人が求めるものも変わる。ずっと同じでいることはないんです。だから話し相手が変わったっていいじゃないですか」
「……確かにね……。でもあなたに話す理由も見当たらないわよね」
真梨子が言い放つと、二葉はがっくりと肩を落とす。
何故かしら、この子からは嘘の匂いがしない。本気で落ち込んでいる姿が、真梨子の心を動かした。
「でもまぁ……ちょっと聞いてもらおうかしら……。ただし、あなたの反応が少しでも気に障ったらすぐに帰るから」
真梨子は恥ずかしくなってそっぽを向いた。しかし二葉の喜んでいる様子が、背中越しに伝わってくるようだった。