貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜
 男に連れて来られたのは、先ほどのクラブからほど近いホテルの、最上階にあるバーだった。

 真梨子は緊張を隠せずにいた。高級ホテルに入ったこともなければ、こんなに夜景のキレイなバーに来たことなんて一度もなかった。

 こんな場所にすんなり入っていけるって、この人は一体何者なの?

 真梨子の緊張感を察知し、男は夜景の見える窓側の席に彼女を誘導すると、椅子を引いて真梨子を座らせた。

 ただのチャラい男かと思っていたのに、彼が見せるスマートな動きに気品すら感じる。

「いいだろう? ここからの景色が好きでさ、時々一人で来るんだ」

 彼の気を抜いたような表情を目にして、真梨子の緊張も少し解けた。

「本当……キレイな夜景」
「女子は好きだろ? こういうロマンティックな感じがさ」
「……一体どれだけの女を連れてきてるのよ」
「ここは君が初めてだよ。俺にとって特別な場所だからね」
「《《ここは》》……ね」
「察しがいいな。まぁこの店以外はぼちぼちね」

 まぁ私には関係ない話。でもこの景色に出会えたことには感謝するけど。

 真梨子は男の視線を感じながらも、無視するように外に目を移す。

 所々に光るビルの灯り、まるでおもちゃのように流れていく車のライト、月明かりにキラキラと輝く川の水面。思わず見惚れてしまった。
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