貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜
 真梨子は頬杖をつくと、口を開く。

「……私ね、結婚が早かったの。だから周りには独身の友達が多くて、こういう話をすると、今のあなたみたいに怒ってくれる子がたくさんいたわ。でも私は彼のことが好きだから反発しちゃうのよね。そんなことないって……。でもその子たちも結婚して子どもが出来ると、何も言わなくなった。まるで腫れ物にでも触る感じ……。だって一番に結婚したのに、私だけ子どもがいないのよ」
「……子どもの有無だけが人生じゃないですよ……」
「ええ、そうね。でも今あなたに言われて、その言葉を《《今の私》》にいって欲しかったのかもしれないって思ったの。たぶんみんなは何度言っても聞かない私に愛想を尽かして、言うのを諦めたのかもしれない」
「そ、そんなことないですよ! みんなきっとあなたがそれで幸せならいいって思ったんじゃないでしょうか。彼といることが幸せなら、それをぶち壊す必要はないですから……」
「私の幸せね……」

 カクテルを飲み干し、真梨子は一息つく。そして二葉を見ると笑顔になった。

「あなた今いくつ?」
「二十六です」
「そう……私は二十四で結婚したの。今考えると、もう少し待てば良かったかなって思う」
「……私の姉は二十二で結婚しましたが、今も楽しそうです」
「人それぞれってことね……」
「……恋愛も人生も、人それぞれだと思います。育った環境、読んだ本、影響を受けた人物、出会った人……だから一つの物事にもたくさんの意見があって、言葉だって曖昧なんです。誰かには心に沁みても、誰かには悪口にしか聞こえない。時には我慢して受け入れないといけないけど、基本は自分が一番安心出来て、落ち着けるものを探して選ぶんだと思うんです。二十四の時のあなたは、ご主人の側が一番幸せを感じて安心出来た。でも時間と環境の変化で、二人の心が求める安心が変わってしまった……」
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