貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜
戸惑う
久しぶりに気分が良かった。まさか今日がこんな日になるなんて。真梨子は二葉との会話を思い出し、笑みが漏れる。
バーを後にし、下りのエレベーターを待っている時だった。
「真梨子?」
突然名前を呼ばれて振り返った真梨子は、驚きのあまり言葉を失った。
ダークグレーのスーツに身を包み、整った短い黒髪と切れ長の瞳の男性が、バーの入口付近に立ってじっと真梨子をを見つめている。
真梨子は思わず後退りし、階段へと逃げ出しそうになる。しかしその手を男性に掴まれてしまう。
どうして今更この人が現れるの? 掴まれた手を振り解く意志の強さも、笑って受け入れる心の余裕も、今の真梨子にはなかった。
「真梨子だろ? あの頃と全然変わらないからすぐにわかったよ」
変わらない? やめてよ。私はあの頃の私じゃない……。お願いだからその瞳で私を見ないで……その声で私の名前を呼ばないで……。
「ど、どうしてあなたがここにいるの……?」
「あぁ、仕事でたまたまね。まさか《《ここ》》で再会出来るとは思わなかったけど」
動揺を隠せず、真梨子の視線が泳ぐ。
「ねぇ、譲。お願いだから離してくれない? もう帰るところなの」
「そんな泣き腫らした顔で?」
真梨子は顔を逸らす。あんなにも会いたかった人なのに、いざ目の前にすると困惑した。こんなボロボロの状態で再会するなんて……。
「……どうして泣いていたんだ?」
「あなたには関係ないわ」
すると譲は真梨子の手を引いて階段を降り始める。
バーを後にし、下りのエレベーターを待っている時だった。
「真梨子?」
突然名前を呼ばれて振り返った真梨子は、驚きのあまり言葉を失った。
ダークグレーのスーツに身を包み、整った短い黒髪と切れ長の瞳の男性が、バーの入口付近に立ってじっと真梨子をを見つめている。
真梨子は思わず後退りし、階段へと逃げ出しそうになる。しかしその手を男性に掴まれてしまう。
どうして今更この人が現れるの? 掴まれた手を振り解く意志の強さも、笑って受け入れる心の余裕も、今の真梨子にはなかった。
「真梨子だろ? あの頃と全然変わらないからすぐにわかったよ」
変わらない? やめてよ。私はあの頃の私じゃない……。お願いだからその瞳で私を見ないで……その声で私の名前を呼ばないで……。
「ど、どうしてあなたがここにいるの……?」
「あぁ、仕事でたまたまね。まさか《《ここ》》で再会出来るとは思わなかったけど」
動揺を隠せず、真梨子の視線が泳ぐ。
「ねぇ、譲。お願いだから離してくれない? もう帰るところなの」
「そんな泣き腫らした顔で?」
真梨子は顔を逸らす。あんなにも会いたかった人なのに、いざ目の前にすると困惑した。こんなボロボロの状態で再会するなんて……。
「……どうして泣いていたんだ?」
「あなたには関係ないわ」
すると譲は真梨子の手を引いて階段を降り始める。