貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜
真梨子は目元のタオルを取ると、隣に座る譲のほうへと向き直る。その瞬間、不覚にも胸が高鳴ってしまった。
先ほどから顔を背けてばかりで、きちんと彼の顔を見ようとしなかった。だが改めて見た譲は、あの頃よりもずっと紳士的で、大人の魅力を放っていた。
「あなたと別れてから高校の教師になったの。彼はその時の生徒よ」
譲に見つめられると、真梨子は胸が苦しくなって涙が出そうになる。彼との記憶は美化されているとはいえ残酷なほどキレイで、今の汚れきった自分が悲しくなった。
「私ね、結婚生活がずっと上手くいってないの。主人はほとんど帰ってこない上にセックスレス。友達もいないし、精神的に参っていたのね……だからあなたの弟に体の関係を強要した」
譲は驚いたように目を見開く。そうよ、それが正常な反応。
「まぁすぐに拒絶されたけど……。さっきあなたは私のことを昔のままって言ったわよね。もう十二年も経つのよ? そんなわけないじゃない。私は汚くて卑しくて自分勝手な女なの。どう? 軽蔑した? わかったらもう放っておいて! 部屋代はちゃんと払うから……」
そう言いかけて、真梨子は譲の手の中に堕ちた。抵抗しようとしたのに、彼の香りに包まれると力が抜けていく。