貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜
 穏やかな気持ちになり、真梨子はふと先ほどの二葉との会話を思い出した。誰かのためにあんな風に怒るなんて、私にはきっと出来ない。だからすごく嬉しかった。

「さっきね、匠の今の彼女と話したの……。すごく変な子なのよ。私に突然電話をしてきて、女子トークをしようですって。意味がわからなくて、でもなんとなく彼女の気迫に押されて了承しちゃった」
「ふーん……俺はまだ映像でしか見たことないんだよな。でも真梨子が押されるなんて、なかなか面白そうな子じゃないか」
「本当……面白い子よ。私の夫をボロクソにけなしてくれたわ……おかげでいろいろ気付かされた」

 真梨子はそっと目を開けると、譲を見つめた。譲もまた、真梨子を見つめていた。

「そして今度はあなたと再会。本当になんて日かしら……」

 その瞬間、腹の虫が大きな音を立てて鳴ったものだから、二人は笑いが止まらなくなる。

「夕飯まだだったから、お腹空いちゃった」
「それならさ、この近くに美味い豚骨ラーメンの店があるんだ。行かないか?」
「えっ、行きたい! ……でもこんな時間にラーメンだなんて、罪悪感満載ね」
「じゃあやめるか?」
「バカ言わないで! 行くに決まってるでしょ」

 譲の手を借りてソファから立ち上がると、どこか心がスッキリしていた。我慢していたものを吐き出して、少しだけ性欲も満たされたからかもしれない。

 ただ二人ともお互いの気持ちについては触れずに伏せていた。先ほど話したことは過去の話。

 敢えて気持ちははっきりしないまま、今はこのままでいい。だって私には晃がいる。

 荷物を持って部屋を出ようとした時、真梨子はふとあることに気付いてぞっとした。

「ねぇ、匠のお兄さんっていうことは、もしかして……」

 譲はニヤッと笑う。

「そう。新急グリープホールディングスの社長だよ」

 自分がとんでもない人と友達だったということに気付いた瞬間だった。
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