貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜
真梨子は朝食を作りながらぼんやり考える。
あの子……二葉ちゃんって言ってたわよね。なんか真っ直ぐで、嫌味のない子だった。私の周りにはいなかったタイプかもしれない。
あんなに晃のことを悪く言われたのに全く怒る気にならなかったのは、あの子の言葉が私を中心にして放たれたものだったから。晃を悪く言う友達は今までもたくさんいた。でもそれは『真梨子のため』と言いながら、自身の感情をぶちまけているようにしか感じられなかった。だから私も反発したのね。
でも二葉ちゃんは違った。もちろん自分の感情も大いに含まれていたと思うけど、それだけじゃなかった。そうでなければ、私のためにあんなに涙は流さないと思うもの。
あんな子に感化されるなんてね……もっと早くあの子に出会いたかったわ。思わず笑みが溢れる。
ハムエッグとサラダを皿に盛り付け、テーブルに置く。トースターに食パンを並べてスイッチを入れてから、ティーポットに紅茶の茶葉を入れた。
私の望む未来か……。お湯が沸くのを待ちながら、二葉の言葉について思いを巡らす。
晃との生活? 仕事? 子ども? 何年経っても、口では否定しても、やはり望む未来は変わらないのかもしれない。
その時、寝室のドアが開き、眠そうな顔の晃が姿を表す。
「おはよう」
「あら、おはよう。もう少し寝てても良かったのよ」
「でもせっかくの休みだし、有意義に過ごしたいじゃないか」
あなたはいつもそうよね。自分にとっての有意義。それは私にとっては有意義でもなんでもないと知っているのかしら。