貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜
 案の定、晃は夜まで帰ってこなかった。それがわかっていたからこそ、真梨子はわざと夕食の準備はせずに、夕方に一人でラーメンを食べに行ったのだ。

 譲と再会して連れて行ってもらったお店の味が忘れられなくて、再び一人で訪れた。

 満たされた気持ちでテレビを観ていると、ドアが開き晃が帰って来る。

「あら、おかえりなさい」

 晃はテーブルに何もない状況を見て、驚いたように目を見開く。

「夕飯は……?」
「作ってないわ。だってどうせ外で食べてきたんでしょ? だから私も外で食べてきたの」

 どうせ作った食事を食べないことで、私への苛立ちを発散させようとしたんでしょ? あなたの手口なんて知ってるわ。

「……テレビを消してくれ」
「今日は休日よ? あなただって外で好きなように過ごしたんでしょ? それならイライラする理由が見当たらないじゃない。私が好きなものを観てもいいと思うわ」

 すると晃は書斎に入り、力いっぱいドアを閉めた。

 真梨子はドキドキしていたが、今日はきちんと言うつもりだった。

「晃、今朝の話だけど……」
「話すことはない」

 書斎から出てきた晃は険しい顔をしていた。下着類を持って浴室に入る。

 その様子を見て、真梨子の中で気持ちが固まり始めていた。

 きちんと向き合って話ができないなんて、夫婦とは言えないんじゃないかしら……。

 シャワーの音が聞こえてくると、真梨子は静かに泣き始めた。

 もう終わりね……。私を大事にしてくれない人を、私だって大事には出来ない。二葉ちゃんの言う通り、あの人は自分勝手。

 私の望む未来に、あの人の姿はないんだわ。
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