貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜
* * * *
バーに到着した真梨子は、カウンター席に座ってカクテルを頼む。ブルームーンは、真梨子のお気に入りのカクテルだった。
カクテル言葉は二つあって、『完全なる愛』『叶わない恋』。私で言えば後者の方ね。
「お待たせしました」
少し緊張した面持ちの二葉が、真梨子隣に腰掛けた。バーテンダーにカクテルを注文すると、二葉は横目でちらっと真梨子の様子を伺う。
本当にこの子って、犬っぽい。感情がそのまま表情に出るのよね。
カクテルグラスに触れながら真梨子が口を開く。
「彼とは上手くいってるの?」
話が唐突に始まったので、二葉は慌てて真梨子は方を向いた。
「は、はい。仲良くさせていただいてます」
「なんだ、上手くいってなかったら鼻で笑ってやろうと思ってたのに」
二葉が驚いたように目を見開くと、真梨子は思わず吹き出した。あぁ、やっぱりこの子って面白い。
「嘘よ。あなたといると本当に調子が狂っちゃう。それで……今日私と会うことは伝えたの?」
「一応……」
「じゃあそのうち来るかもしれないわね」
真梨子はカクテルを飲み干すと、同じものを再び注文する。バーテンダーが目の前で作るのを眺めている間、彼女は口を閉ざした。
私もこんな時があったのかしら……晃のことが好きで仕方ない瞬間。もう昔のことだから思い出せない。
グラスにカクテルが注がれる。真梨子の前に綺麗なブルーのカクテルが置かれると、彼女はようやく二葉の顔を見た。