貴方の残り香〜君の香りを狂おしいほど求め、恋しく苦しい〜

* * * *

 バーに到着した真梨子は、カウンター席に座ってカクテルを頼む。ブルームーンは、真梨子のお気に入りのカクテルだった。

 カクテル言葉は二つあって、『完全なる愛』『叶わない恋』。私で言えば後者の方ね。

「お待たせしました」

 少し緊張した面持ちの二葉が、真梨子隣に腰掛けた。バーテンダーにカクテルを注文すると、二葉は横目でちらっと真梨子の様子を伺う。

 本当にこの子って、犬っぽい。感情がそのまま表情に出るのよね。

 カクテルグラスに触れながら真梨子が口を開く。

「彼とは上手くいってるの?」

 話が唐突に始まったので、二葉は慌てて真梨子は方を向いた。

「は、はい。仲良くさせていただいてます」
「なんだ、上手くいってなかったら鼻で笑ってやろうと思ってたのに」

 二葉が驚いたように目を見開くと、真梨子は思わず吹き出した。あぁ、やっぱりこの子って面白い。

「嘘よ。あなたといると本当に調子が狂っちゃう。それで……今日私と会うことは伝えたの?」
「一応……」
「じゃあそのうち来るかもしれないわね」

 真梨子はカクテルを飲み干すと、同じものを再び注文する。バーテンダーが目の前で作るのを眺めている間、彼女は口を閉ざした。

 私もこんな時があったのかしら……晃のことが好きで仕方ない瞬間。もう昔のことだから思い出せない。

 グラスにカクテルが注がれる。真梨子の前に綺麗なブルーのカクテルが置かれると、彼女はようやく二葉の顔を見た。
< 68 / 144 >

この作品をシェア

pagetop